日本消化器内視鏡学会甲信越支部

048 腎摘25年後に発見・切除された腎細胞癌膵転移の1症例

長野県厚生連篠ノ井総合病院 外科
上山 数弘、花崎 和弘、古澤 徳彦、浦川 雅巳、池野 龍雄、宮本 英雄、市川 英幸
長野県厚生連篠ノ井総合病院 内科
峯村 今朝美、牛丸 博泰
長野県厚生連篠ノ井総合病院 病理科
川口 研二

 腎細胞癌は切除後長期間経過したあと転移再発することが知られている。転移臓器としては肺、肝、骨、対側腎が多く、膵への転移は稀である。腎細胞癌切除後25年で膵転移が発見され切除し得た症例を経験したので報告する。症例は77歳男性。人間ドックの腹部USにて肝左葉下部に異常エコーを指摘され精査となった。25年前、左腎癌にて左腎摘出術を施行されている。CTにて膵頭部に7.1×5.3cmの造影効果の強い腫瘤を認めた。ERCPでは主膵管の閉塞はなく、圧排性狭小化をみとめた。血管造影では血流に富む境界明瞭な腫瘍であった。以上の結果、内分泌腫瘍あるいは腎癌の転移再発が考えられた。左腎摘出術より25年経過していたため、腎癌の転移再発は否定的と考えた。アミラーゼは141IU/mlと軽度上昇を示したが、CEA、CA19-9は正常範囲内であった。内分泌検査の結果、インスリノーマは否定され非機能性膵内分泌腫瘍が強く疑われた。手術目的で当院外科に転科され、膵頭十二指腸切除術が施行された。開腹所見では、明らかなリンパ節転移は認めず、膵頭部に径6cmの腫瘤を認めた。体部、尾部には著変は認めなかった。病理組織学的検査で、腫瘍は線維被膜に包まれ周囲膵組織を圧排するように増殖する明細胞腺癌であった。膵管上皮内へのin situ病変は認めず、原発性膵腫瘍は否定的であった。この組織像は1980年に当院で切除された左腎癌の組織と同様であり腎細胞癌の転移と診断した。免疫組織学的、文献的考察を加えて報告する。