日本消化器内視鏡学会甲信越支部

047 VIPomaの1例

市立甲府病院 消化器科
大高 雅彦、三浦 美香、若宮 稔、嶋崎 亮一、俵 章夫、赤羽 賢浩
宮川病院
宮川 直澄

 症例は59歳、男性。7月中旬からの水様性下痢を主訴に前医に入院。急性胃腸炎の診断で加療を受けるも軽快せず、腎機能障害の進行を認めたため8月5日当院へ紹介された。入院時の生化学検査ではTP 6.3, Alb 4.1, BUN 114, UA 25.2, Cr 4.8, T-chol 189, ALP 125, AST 9, ALT 12, LDH 104, r-GTP21, amy 131, Na 131, Cl 106, K 3.7, Ca 9.4, IP 9.6, BS 160, CPK 80, CRP 0.2と腎前性腎不全を示唆する所見であった。絶飲食と補液をおこない、脱水症・腎不全は軽減したが、夜間便失禁を呈するほどの水様性下痢が続いていた。便培養は陰性であった。大腸鏡検査は異常なし。内分泌学的検索を行ったところ、VIP 550 pg/ml, glucagon270 pg/ml, GH 0.87 ng/mlが高値を示した。VIPomaを疑い、腎機能の改善を待って行った腹部造影CT検査では膵臓を含めて腫瘤は認められなかった。上部消化管内視鏡検査は十二指腸に多発のびらんを呈していたが、SMTの所見は認められなかった。肺・頭部CTに異常所見なし。腹部血管造影では、腫瘍濃染像やencasementなどの所見は認めなかった。経皮経肝門脈造影下に脾静脈・SMV・門脈本幹から経カテーテル採血を行いVIP値の測定を行ったが、490〜540 pg/mlであり、有意な上昇を示す部位の同定はできなかった。酢酸オクトレオチドを100μg/日より開始し300μg/日を皮下注射したが、依然として4L以上/日の水様便を認めている。現在、VIPomaの局在が不明なこと、ソマトスタチン誘導体に反応せず特異的な治療はできていない。中心静脈栄養下に1日およそ10Lの補液を行っている。VIPomaは稀な疾患であり、発見時すでに転移を有するとの報告が多い。しかし、本症例は種々の検査を行ったがmassの認識ができなかった。神経内分泌腫瘍に対する臨床試験中のインジウム-111標識ペンテトレオチドを用いたオクトレオスキャンが考慮される症例である。