日本消化器内視鏡学会甲信越支部

044 急速な増大傾向を認めた膵嚢胞の1例

長野県立木曽病院 外科
江口 隆、北原 弘恵、小山 佳紀、久米田 茂喜
長野県立木曽病院 内科
小松 健一、高山 真理、飯嶌 章博

  急性膵炎や慢性膵炎急性増悪の発症後にしばしば膵仮性嚢胞が生じる。自然に消失するものもあるが、出血、感染、破裂、穿孔などの重篤な合併症を来すこともあるため、何らかの臨床症状を伴うもの、増大傾向があるものなどはドレナージなどの治療が必要となる。今回われわれは慢性膵炎急性増悪に併発し、嚢胞内出血を伴い急速に増大した膵仮性嚢胞に対して外科的手術を行った1例を経験したので報告する。 症例は62歳、男性で、アルコール性慢性膵炎、高血圧にて内科通院中であった。H17年6月26日、飲酒(生ビール3杯、焼酎3杯ほど)した後に腹痛が出現した。その後も腹痛が続き、7月1日、めまい、嘔気が出現したため内科受診した。CTにて巨大膵嚢胞および膵周囲の炎症所見を認め、慢性膵炎の急性増悪と診断し入院となった。また、嚢胞内に高吸収域を認め、嚢胞内出血と考えられた。保存的治療を開始したが、腹部症状は増悪し、貧血の進行を認めた。輸血を行い、膵嚢胞に対して酢酸オクトレオチド投与を開始したが、7月8日、腹部症状、CT所見などがさらに増悪したため、緊急開腹手術を行った。胃前壁を切開し、後壁から嚢胞を穿刺し、黒色の内容液を約2000ml吸引した。同部から自動縫合器を挿入し、約5cmの胃後壁嚢胞吻合を作成した。術後経過は良好で、第18病日に施行した腹部CTでは巨大嚢胞はほとんど消失していた。現在外来にて経過観察中である。