日本消化器内視鏡学会甲信越支部

043 遅発性外傷性膵炎と考えられた一例

長野赤十字病院 消化器科
平野 大、山川 耕司、竹中 一弘、倉石 章、森 宏光、原 悦雄、和田 秀一、松田 至晃

 症例は26歳男性でアルコール摂取歴はない。平成16年10月に高速道路で自損事故を起こした際に腹部を打撲し、救急病院に搬送されたが腹部の検査は受けずに帰宅し、その後も腹部症状は認めなかった。平成17年3月12日軽度の腹痛が出現し近医受診。軽度のアミラーゼ高値などから膵炎と診断され、メシル酸カモスタットの処方を受け自宅療養していた。4月12日の定期受診の際に肝機能障害を指摘され当科を紹介され入院となった。各種ウィルス検査は陰性でCT、超音波検査上肝に異常を認めないことなどからメシル酸カモスタットによる薬剤性肝障害と診断し、同薬剤の内服中止のみで肝機能障害は改善した。第11病日深夜に突然腹痛が出現。血液検査にて血中アミラーゼ507IU/Lと上昇を認め、腹部CTで膵体尾部の腫大を認め急性膵炎と診断した。明らかな腫瘍性病変は認めなかった。絶食、補液等の保存的治療により自他覚症状、血液検査所見共に改善した。4月24日ERCPを施行したところ胆道系には異常所見を認めなかったが、膵頭体移行部に主膵管の中断を認めた。MRCPでも同部に主膵管の中断を認め尾側の拡張を認めた。EUSでは頭体移行部で膵の腫大を認めるものの明らかな腫瘍は認めなかった。PETでは膵体部から尾部に淡い集積を認めた。この他、抗核抗体は陰性で各種腫瘍マーカー、IgG、IgG4値は正常範囲内であった。6月1日のERCPでは頭体移行部に不整狭窄を認めるものの尾側膵管まで造影され、明らかな改善を認めた。狭窄部の経乳頭的膵管生検では腫瘍細胞を認めなかった。以上の経過より腫瘍性疾患は否定的と考え、遅発性の外傷性膵炎と診断した。以降外来で経過観察中であるが平成17年9月現在まで増悪を認めていない。遅発性外傷性膵炎の症例報告は医学中央雑誌では確認できなかったが、海外で3例の報告があり受傷後3ヶ月から1年後に発症している。いずれも膵体尾部切除が施行されていた。以上、保存的治療で改善した遅発性外傷性膵炎と考えられた一例を経験したので報告する。