日本消化器内視鏡学会甲信越支部

040 若年者の大網リンパ管腫の1例

佐久総合病院 外科
石川 健、植松 大、関根 徹、大久保 浩毅、中村 二郎、細谷 栄司、大井 悦弥、夏川 周介
佐久総合病院 胃腸科
小山 恒男

 我々は大網に発生した嚢胞性リンパ管腫の1例を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。症例は18歳男性。4ヶ月前より頻尿を自覚しており、徐々に増悪していた。頻回の嘔吐と下痢があり改善しないため来院した。腹部エコーと腹骨盤部CT、MRIで脾門部から下行結腸腹側にかけて最大径10cmの複数の嚢胞性腫瘤を指摘された。腸間膜のリンパ管腫を疑い、手術目的に入院となった。上中腹部正中切開で開腹した。胃結腸間膜に5〜13cmの嚢胞性腫瘤を4個認めるほか、膵尾部に1〜2cmの小嚢胞性腫瘤が複数個存在していた。腫瘤は、膵臓と脾臓に近接していたが、周囲臓器を損傷する事なく、腫瘤を完全摘出した。経過順調で、術後11日目に退院となった。術後病理診断で、嚢胞の内面は一層の扁平な細胞で覆われており、免疫染色により大網原発の嚢胞性リンパ管腫と診断された。リンパ管腫は、主に小児の頚胸部に発生する良性腫瘍で、腹腔内から発生するものは5%程度とされる。腹腔内リンパ管腫は、発生部位として腸間膜、小網や大網、後腹膜に大別され、腸間膜からのものが最も多く、小網や大網、後腹膜のものは比較的稀とされている。医学中央雑誌による検索では小網、大網より発生するリンパ管腫は、それぞれ40例、70例程である。リンパ管腫は小児例が多く、大網より発生するものもほとんど小児例であるとされるが、小網より発生するものは85%以上が25歳以上であり、発症年齢に差が認められる。リンパ管腫の発生機序は、<1>先天的なリンパ管組織の発生障害説<2>リンパ管組織の自律性増殖を伴う新生物説<3>リンパ管の機械的な閉塞によるうっ滞説<4>リンパ管の嚢胞変性説がある。治療法は、腫瘍の完全摘出術を行われる事が多く、その理由として<1>腫瘍の自然退縮が期待できない事<2>最終確定診断には組織学的検索が必要である事<3>茎捻転、出血、破裂などの合併症の危険性が有る事<4>比較的摘出が容易である事が多い事が挙げられる。しかし、多臓器の合併切除が必要となる事も有り、開窓術や部分切除術で充分であるともいわれており、OK-432や10%グルコースの嚢胞内注入を併用する報告例も有る。