日本消化器内視鏡学会甲信越支部

037 急性虫垂炎が原因と考えられる多発性肝膿瘍に対し、肝動注化学療法が奏功した1例

長岡赤十字病院消化器科
岩崎 友洋、佐藤 明人、山田 聡志、坪井 康紀、柳 雅彦、高橋 達

 症例は77歳男性。急性虫垂炎で2005年7月当院外科に入院し、保存的治療にて一旦改善し、9日目に退院。8月に入り下腹部痛が再燃し、8月3日当院外科受診。CT上多発性肝膿瘍と診断され当科紹介入院となった。脳梗塞の既往がありチクロピジン内服中であったことや多発性であることから経皮経肝膿瘍ドレナージは適応外であった。IPM/CS 1g/日、CLDM 1,200mg/日の全身投与を行ったが、弛張熱や悪寒戦慄もみられ、炎症所見の改善はみられなかった。同5日総肝動脈にカテーテルを留置し持続肝動注化学療法(IPM/CS 2g/日)を開始したところ、解熱し炎症反応も改善した。徐々に抗生剤を漸減し、同15日に全て中止とした。同17日右下腹部痛が出現。CTにて肝膿瘍は著明に縮小していたが、虫垂炎の再燃と思われる虫垂の腫大が認められ、同日外科にて虫垂切除術を施行した。術後肝膿瘍の再発はみられていない。肝膿瘍は敗血症を引き起こし重篤な状態となることも多く、早急な診断と適切な処置・治療が必要な疾患である。かつては急性虫垂炎などに伴う経門脈性の感染経路をとる肝膿瘍が多く認められたが、抗生剤の進歩とともに減少している。本例では他に基礎疾患はなく、肝膿瘍の原因として急性虫垂炎が最も考えられた。本症例のように急性虫垂炎の経過中に炎症所見・発熱などの再燃が認められた場合には、虫垂炎の再発のみならず肝膿瘍の可能性も常に念頭において精査を進める必要がある。また、本例のように抗生剤の全身投与が無効で経皮経肝膿瘍ドレナージが施行できない多発性肝膿瘍に対し、持続肝動注化学療法が有効であると考えられた。