日本消化器内視鏡学会甲信越支部

036 肝生検にて診断された肝放線菌症の一例

信州大学 消化器内科
武藤 英知、小松 通治、三澤 倫子、田中 直樹、梅村 武司、一條 哲也、松本 晶博、吉澤 要、田中 榮司、清澤 研道

 肝放線菌症は稀な疾患であり、悪性腫瘍との鑑別が困難なため手術後に診断される症例が多い。今回、肝生検にて診断された肝放線菌症の一例を提示する。 症例:64歳の男性。1986年に胃癌にて胃全摘術、1990年に慢性膵炎のため膵頭十二指腸切除術、1990年より糖尿病のためインスリン治療を行っている。2004年3月に右季肋部痛を自覚、5月に同部に腫瘤を触知したため近医受診。CT上肝S4に造影効果のある腫瘤を認め、精査加療目的に入院した。血液検査では、ALP上昇と、CEAの軽度上昇を認めた。画像検査を施行したところ、腹部超音波では境界明瞭な低エコー腫瘤として描出された。腹部CTでは腫瘍は単純で周囲肝実質より低濃度、造影早期相で内部不均一、辺縁がリング状に濃染され、後期相にて周囲肝実質より低濃度を示した。MRIでは腫瘤は62×24×44mmでT2高信号、T1低信号を呈し、輪郭付近が有意に造影効果を示した。当初胆管細胞癌、転移性肝腫瘍が疑われたが、腫瘤内部にグリソン鞘が認められること、また造影されない小さな液状成分を内包していることから病変は膿瘍の可能性が高いと考えられた。確定診断のため8月13日に経皮的腫瘍生検を行った。組織所見は好中球、単核球が高度に浸潤した滲出物と肉芽組織を示す膿瘍の所見で、悪性所見は認められなかった。さらに組織内に放線菌の菌塊を認めたため肝放線菌症と診断した。8月31日よりペニシリンG120万単位/日による治療を開始。2か月後のMRIでは、膿瘍はやや縮小、1年後のCTでは膿瘍は完全に消失した。本症例では画像検査にて肝膿瘍を疑い肝生検で肝放線菌症と診断し、保存的治療で治癒することが出来た。消化管手術の既往がある症例や糖尿病、低栄養状態など免疫力の低下した症例に発症した肝腫瘍では肝放線菌症を肝腫瘍の一つの鑑別として考慮する必要がある。