日本消化器内視鏡学会甲信越支部

035 急性肝不全様の発症を来し腹腔鏡下肝生検にて診断に至ったNASH(nonalcoholic steatohepatitis)の1例。(腹腔鏡肉眼所見を中心に)

飯田市立病院 消化器内科
山浦 高裕、海野 洋、岡庭 信司、中村 喜行
信州大学 医学部 消化器科
一條 哲也
飯田市立病院 臨床病理科
伊藤 信夫

 症例は30歳、女性。飲酒歴なし。2004年4月に出産(妊娠前体重45Kg, 出産直前時体重60Kg)。2004年10月中旬より腹部膨満感が出現にて10月18日に当科受診。来院時体重は52Kgであり肝臓を正中に6横指触知し多量の腹水を認めた。来院時血液検査にて肝機能障害(T.Bil 3.6 mg/dl, AST 317 IU/L, ALT 99 IU/L, γ-GTP 636 U/l, ALP 458 U/l)を認めたため同日精査加療目的入院となった。入院時腹部超音波検査および腹部CT検査にて肝臓は腫大し著明な脂肪沈着を認め多量の腹水を認めた。ウイルス性肝疾患, 自己免疫性肝疾患, 代謝性肝疾患の存在も考え精査を行ったが異常を認めず、NASHを疑い保存的に治療を行った。2004年12月15日に腹腔鏡検査を行い腹腔鏡肉眼所見で肝臓は辺縁の鈍化を伴ってやや腫大し、硬度はやや硬く、肝表は粗大起伏を認め樹枝状に白色紋理が観察された。また、限局した脂肪化巣を認めた。肝組織所見にてperivenular fibrosis, 小葉中心性の脂肪沈着, 中心静脈周囲のリンパ球の浸潤, 一部肝細胞の風船様膨化を認めた。以上の病理所見と各種ウイルスマーカーが陰性で自己免疫性肝疾患, 代謝性肝疾患も否定的であり飲酒歴がないことよりNASHと診断した。急性肝不全様の発症を来し腹腔鏡下肝生検にて診断に至ったNASHの1例を経験したので腹腔鏡肉眼所見を含めて報告する。