日本消化器内視鏡学会甲信越支部

032 食道静脈瘤破裂に対して部分脾動脈塞栓術が有効だった一例

佐久市立国保浅間総合病院 内科
三木 巌

 症例は58歳男性.10年前にB型肝硬変に伴う食道静脈瘤破裂に対するEVL治療歴があるもその後すぐに外来受診を自己中断していた.1ヶ月前より黒色便を自覚していたが,放置していた.2005年3月13日夜にふらついて立っていられなくなり,その後吐血した.翌14日外来受診し,血液検査ではHb12.5g/dlで点滴をして安静にしていた.ところが突然洗面器一杯程度吐血して,収縮期血圧が50mmHgまで低下し,ショック状態となった.このときHb8.5g/dlまで低下しており,直ちに緊急内視鏡を施行した.高度な食道静脈瘤を認め,ECJ3時方向から出血していた.胃静脈瘤は認めず,観察範囲内では他に出血点はなかった.大量の血液のため視野が確保しにくく,vital signも不良のため出血点を中心に3箇所EVLを行っただけで内視鏡は終了し入院.MAP4単位とFFP4単位の輸血と昇圧剤にて収縮期血圧は90mmHg前後に安定し,15日に内視鏡を再検した.内視鏡所見はF3,Ls,Cb,RC3+,Lg-だった.内視鏡挿入時は止血されていたが,ゲップをした瞬間に再出血して計10箇所EVLを行い,止血確認後内視鏡検査を終了した.さらにMAP4単位とFFP6単位を輸血したが,翌16日になっても頻脈が続き,Hb6.2g/dlまで低下.PLT2.6万と低下しており,腹部CTでは高度な脾腫を認めた.止血が不完全であり,門脈圧亢進状態の改善と血小板値上昇が本症例の救命に必要と考え,同日夕方緊急血管造影検査を行った.脾動脈からゼラチンスポンゼルにて部分脾動脈塞栓術を施行し,静脈相でおよそ90%以上塞栓した.その後塞栓による発熱や疼痛がしばらく続いたが,消化管出血は軽快した.食道静脈瘤に対しては24日にアルゴンプラズマを用い,内視鏡下で地固め療法を1回追加して治療を終了した.4月25日内視鏡検査を再検してF1,Lm,Cb,RC-,Lg-と食道静脈瘤は改善.塞栓による細菌感染に対して1ヶ月以上抗生剤投与を要したが,5月10日に退院した.退院時PLT28.6万だった.約2ヵ月後の内視鏡検査ではF1,Lm,Cb,RC-,Lg-と食道静脈瘤は悪化していない.今回食道静脈瘤破裂に対して部分脾動脈塞栓術が有効だった一例を経験したので報告する.