日本消化器内視鏡学会甲信越支部

031 肝内血流の不均衡によって興味深い画像及び組織所見を呈した原因不明の肝静脈血栓症の1例

新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 消化器内科学分野
塙 孝泰、青木 洋平、橋本 哲、竹内 学、山際 訓、松田 康伸、大越 章吾、野本 実、青柳 豊

 症例は32歳女性、大酒歴を認める(5合以上4年)。 2005年7月初旬より下痢、腹部膨満感、体重増加、下腿浮腫を自覚し地域の総合病院を受診した。対症療法で下痢は改善したが血液生化学検査で軽度の肝酵素上昇、中等度の胆道系酵素上昇、軽度の低アルブミン・低コレステロール血症、赤血球数と血小板数上昇を認めた。腹部エコー/CTで肝脾腫と腹水を指摘され、8月3日当科外来紹介受診し8月11日精査のため当科に入院した。腹部エコーで著明な肝腫大と下大静脈の圧排狭窄、肝静脈血流の欠損を認めた。肝臓はCTで尾状葉を主体として腫大し、それ以外の領域で不均一な造影効果を認め、下大静脈は腫大した尾状葉により著しく前後から圧排されているが器質的変化を認めなかった。MRIでは尾状葉はほぼ正常の信号を呈しているが、他の肝領域では異常信号を示した。T2WIで低信号の領域には鉄沈着を示す所見があり、CT所見と比較すると肝血流が低下している領域に鉄の沈着が多い傾向があった。肝静脈造影では本来の肝静脈は描出されず、くもの巣状に多数の細い側副血行路が発達していた。下大静脈造影では肝部での圧排狭窄のため圧上昇をきたし奇静脈を介した側副血行路を認めた。上腸間膜動脈造影では門脈圧亢進のため左胃静脈を介した側副血行路を認め、GIFで食道静脈瘤F2LiCwRC(++)(telangiectagia)を確認した。肝生検ではうっ血所見と広範な肝細胞の脱落、肝静脈の血管炎所見を認めた。血液凝固亢進の検索を行ったが有意な結果を得られなかった。以上から基礎疾患のない若年性肝静脈閉塞症と考えられ、予後については注意深い経過観察が必要である。