日本消化器内視鏡学会甲信越支部

029 肝移植により肝肺症候群の改善を認めた肝癌合併C型肝硬変の一例

信州大学 医学部 移植外科
吾妻 寛之、池上 俊彦、三田 篤義、大野 康成、小林 聡、浦田 浩一、中澤 勇一、寺田 克、橋倉 泰彦、宮川 眞一

 肝肺症候群は,肝疾患,低酸素血症(動脈酸素分圧PaO2<70mmHg)あるいは肺胞気−動脈酸素分圧較差の上昇(A-aDO2>20mmHg)、肺内血管の拡張を3徴とする症候群である.これに対しては肝移植以外の有効な治療法がないとされている。今回、肝肺症候群を合併した肝細胞癌症例に対し生体肝移植を行い,肝肺症候群の改善を認めたので報告する.症例は56歳男性で1993年に肝機能異常を指摘され,C型肝炎と診断された。2004年6月に肝細胞癌が出現しTAEが施行された.2004年9月より呼吸困難が出現し在宅酸素療法を開始した。肝細胞癌の再発を認め,2004年12月に生体肝移植を目的に当科へ紹介、入院となった。入院時、黄疸はなく、チアノーゼとばち状指を認めた。術前検査では肝機能異常と腫瘍マーカーの上昇に加え,低酸素血症(ルームエアーでPaO2 52.4mmHg)とorthdeoxiaを認めたが、100%酸素投与によりPaO2 419mmHgと著明に改善した。腹部エコー及びCTでは、肝硬変、多発肝細胞癌、脾腫を認めた。胸部CTで軽度の気腫性変化を認めたが、肺換気・血流シンチグラムは正常であった。低酸素血症が肝肺症候群によるものか否かが肝移植適応に重要であったため,コントラスト心エコーを行った。マイクロバブルテスト陽性で肺内血管拡張が証明され肝肺症候群と診断した。2005年4月12日息子をドナーとする生体肝移植を施行、術後には低酸素血症の増悪は認められなかった。術後4ヶ月にはチアノーゼは消失し、血液ガス分析ではルームエアーでPaO2 75.4mmHgと改善し,コントラスト心エコーでマイクロバブルテストの改善を認め酸素吸入を中止することができた。比較的高度な低酸素血症を伴う症例では、その原因が肝肺症候群に起因するものであれば肝移植のよい適応と考えられる。