日本消化器内視鏡学会甲信越支部

028 胃浸潤により消化管出血を来した肝外発育型肝細胞癌の一例

山梨大学 医学部 第1外科
石井 健一、鈴木 哲也、松田 政徳、藤井 秀樹

 症例は76歳男性。2000年12月、同時性多中心性肝細胞癌(HCC) StageIVaに対し、後下区域切除術、尾状葉左側切除術、胆嚢摘出術を施行。その後残肝に多発肝内転移再発を来たし肝動注塞栓療法(TAE) を継続施行。経過中、外側区域左側に肝外突出型再発巣を認め、同部位にもTAEを実施したが効果は不十分だった。2005年6月 、突然の貧血を認め入院した。貧血を認めたが黄疸、腹水無く、腹部は平坦、軟で腫瘤は 触知せず。入院時血液検査所見ではHb7.8g/dl、T-bil 0.7mg/dl、 Alb 2.9 g/dl、PT% 80.9% 、ICG R15 4.5%でliver damage A、Child-pugh分類A。AFP1617ng/ml AFP-L3 81% PIVKA-II 222mAU/ml。上部消化管内視鏡検査で胃体部前壁から大弯に10×11cm大の易出血性で中心潰瘍を伴う隆起性病変を 認めた。周堤に正常粘膜の被覆を一部に認め、胃壁外からの腫瘍の浸潤を疑った。腹部CTでは同部位で胃壁の連続性が途絶し、肝腫瘤が胃内腔に突出しており、HCCの胃浸潤と診断。血管造影検査では腫瘍への、左胃動脈系の動脈の流入を確認し、肝内には多発再発巣を認めた。本腫瘍からの大量出血が予測され、他に有効な治療法がないため、外側区域部分切除、胃全摘術を施行。病理所見では、胃全層に低分化HCCを認めた。壊死部分も多く認めたが胃壁浸潤の大部分がHCCの浸潤であった。術後経過は順調で軽快退院した。肝外突出型HCCは、その栄養血管が周辺組織から流入してくることが知られている。本腫瘍も胃壁に癒着し左胃動脈系から栄養を得たものと断定した。さらにHCCが胃壁を貫いて胃内腔に突出し、消化管出血を来すに至ったと考えられた。通常HCCは膨張性発育を来す腫瘍として知られているが、肝外突出型HCCでは破裂以外に多臓器浸潤に伴う消化管出血などの合併症も念頭に置く必要があるものと考えた。