日本消化器内視鏡学会甲信越支部

024 同時多発性陥凹型早期十二指腸癌の1例

佐久総合病院 胃腸科
古立 真一、小山 恒男、宮田 佳典、友利 彰寿、堀田 欣一、森田 周子、田中 雅樹、高橋 亜紀子、佐田 竜一、神田 周平

 症例;68歳、男性。主訴;なし。家族歴;特記すべきことなし。既往歴;昭和50年にS状結腸癌にてS状結腸切除術、昭和61年多発性の結腸癌、ポリポーシスにて結腸亜全摘術、平成元年に直腸腺腫にてEMRを施行された。臨床経過;平成16年3月に十二指腸球部に辺縁不整で、境界明瞭な発赤調の陥凹性病変が2つ認められ、生検にて十二指腸癌(低分化癌)と診断された。病変の大きさはそれぞれ約10mmと3mmで、両者とも0-2c、深達度mと診断された。2度の開腹術の既往があり、患者の希望により同年4月内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD;endoscopic submucosal dissection)が施行された。 局注にヒアルロン酸を用い、ニードルナイフとSTフードを主に用いて切開剥離が行われ、剥離が困難な部位ではフックナイフが使用されたが、粘膜下層の膨隆は不十分で剥離は困難であった。術中に小穿孔を起こすもクリッピングにて縫合を行い、最終的にはスネアを用いて2分割切除が施行された。術後に行った腹部CTにて後腹膜気腫が認められたため絶食とし、経鼻胃管挿入による持続吸引、抗生剤投与等を行った。発熱、腹痛、炎症反応の上昇などは見られず、第9病日のCTにて改善傾向がみられたため同日より食事開始し、第13病日に退院となった。最終的な病理診断は、adenocarcinoma(por2>tub2)、T1(SM2、700μm、por2)、12×12mmと adenocarcinoma(tub1)、T1(M)、4×3mmで、共にly0、v0、LM(-)、VM(-)であった。2度の開腹術の既往があり、本人が望まなかったため追加治療は行わず経過観察中で、1年5ヶ月の間再発なく経過している。 結語;本症は全腸管癌腫の約0.5%と比較的稀な疾患で、同時多発例の報告も少ない。十二指腸は粘膜下層にBrunner腺があり膨隆形成が不良となるため、ESD困難な部位であると考えられた。