日本消化器内視鏡学会甲信越支部

018 骨格筋転移を来たした胃癌の1例

佐久総合病院
神田 周平、小山 恒夫、宮田 佳典、友利 彰寿、堀田 欣一、森田 周子、田中 雅樹、高橋 亜紀子、古立 真一、高松 正人、古武 昌幸、新井 陽子

 【症例】患者は46歳、女性。2004年7月下旬、下痢を主訴に当院を受診した。食欲不振、体重減少は認められなかった。上部消化管内視鏡検査(EGD)では胃体下部から前庭部に散在性の浅い潰瘍を認め、同部位を中心に胃全体に伸展不良な肥大した襞を認めた。生検にてgroupV,sigが認められ、4型進行胃癌と診断した。CT上は胃体部から胃前庭部にかけて全周性の高度な壁肥厚像を認めたが、多臓器浸潤や遠隔転移は明らかでなかった。又腹水貯留を認め、細胞診ではclassVであり、Advanced gastric adenocarcinoma(sig),type4,T4N0H0P1CY1M0, StagIVと診断した。同年8月下旬より5FU持続投与による化学療法を開始したが、1クール終了後より左股関節から臀部の疼痛を訴えるようになった。疼痛部位の腫脹や発赤はなく、歩くと痛みが増悪した。骨シンチ、MRIにて明らかな骨転移所見はなかったが、MRIで左中殿筋を中心に大殿筋及び小殿筋にT2強調像での信号上昇とenhanceを認めた。しかし、その境界は不明瞭であったため筋肉の炎症が疑われ鎮痛薬投与にて経過観察を行った。5FU2クール終了後のEGDにて前庭部の潰瘍性病変は多少縮小を認めたが、胃壁の伸展性は変わらずSDと考えた。しかし、CTでは腹水の著明な増加を認めPDと判定し、10月下旬よりTXL weekly(3投1休)に変更した。同時期に臀部の腫大が増悪したため、生検を施行しsignet ring cellを認めたことから胃癌の筋肉転移と診断した。TXL weekly 2コース終了後の12月の時点で左脊柱起立筋群に新たな腫大を認め、持続痛を伴ったため疼痛緩和のため50Gyの放射線照射を併用し、痛みは軽快した。2005年2月のCTでは腹水の増量を認めPDと判定し、患者の希望により緩和ケアを行い2005年8月に永眠された。【結語】MRIにて筋肉にT2で信号上昇、造影にてenhanceを認める場合は、筋肉の炎症や感染症だけでなく癌の骨格筋転移も考慮する必要がある。