日本消化器内視鏡学会甲信越支部

016 TS-1+CDDP療法にて腹腔内遊離悪性細胞が陰性化し4年6ヶ月無再発生存中の1例

新潟県立がんセンター新潟病院 外科
沈 英挙、梨本 篤、藪崎 裕、中川 悟、瀧井 康公、佐藤 信昭、土屋 嘉昭、佐野 宗明、田中 乙雄

 症例は54歳、女性。48歳時に乳癌にて手術を施行されている。平成13年1月、腹満感を主訴として発症。近医を受診し、内視鏡検査にて胃体部に4型胃癌を認め、生検にて組織学的にpor2と診断された。手術目的に当科を紹介され、漿膜浸潤陽性を疑い診断的腹腔鏡検査を施行した。3月16日腹腔鏡検査では肉眼的な播種は認めなかったが、洗浄細胞診にて遊離悪性細胞陽性であった。治療前の臨床病期は、cT3, cN1, cH0, cP0, CY1, Stage IVと診断した。TS-1+CDDP療法による術前化学療法(NAC)を2クール施行後、手術を行う方針とした。化療後の効果はPRと判定した。化療に伴う有害事象は軽度であった。6月11日に胃全摘+脾臓合併切除、D2リンパ節郭清術を施行した。術中洗浄細胞診では遊離悪性細胞陰性であった。手術所見では、sT3, sN0, sH0, sP0, CY0, Stage II、根治度Bと判定した。組織学的にはpT2(SS), pN2(+)であり、抗腫瘍効果は1bであった。術後経過は順調で、術後20日目に退院した。外来にて術後補助化学療法としてTS-1を1年4ヶ月内服した。治療後4年6ヶ月を経過したが無再発であり、現在無治療にて経過観察中である。新薬の登場により、高度進行胃癌に対する化学療法の奏効率は飛躍的に向上している。当科にて腹腔鏡検査にてP0CY1であった15例中10症例(66.7%)がTS-1+CDDP療法にてCY0となりDown stageされ根治手術を受けている。現在、全例生存中であるが、2例に再発を認め、再発形式は1例でリンパ節・肝転移、もう1例では局所再発であった。本症例のような遊離癌細胞陽性を示す高度進行胃癌に対してのTS-1+CDDP療法は有効な治療法であると考えられた。