日本消化器内視鏡学会甲信越支部

011 初回生検で未分化型胃癌とされた、胃原発GISTの一例

山梨大学 医学部 第一内科
小室 美有貴、板倉 潤、大塚 博之、花輪 充彦、山口 達也、清水 健吾、植竹 智義、北原 史章、中村 俊也、佐藤 公、榎本 信幸

  症例は68歳男性。アスピリン喘息のため近医通院中に貧血を認め、2005年5月、上部消化管内視鏡検査を施行。胃噴門部直下に潰瘍性病変を認め、生検組織のHE染色標本により未分化型adenocarcinomaを疑われ、紹介入院となった。当院での上部消化管内視鏡再検査では、噴門部直下後壁側よりに、中心に深い潰瘍を伴い表面が周囲と同様の粘膜で覆われた、立ち上がりのなだらかな5cm大の隆起性病変を認めた。CTでは胃底部から胃体部にかけて壁外に進展する約12cmの巨大な腫瘤性病変を認めた。横隔膜に近接しており浸潤の可能性も考えられたが、リンパ節及び遠隔転移は認められなかった。造影検査では、胃噴門部直下後壁に辺縁平滑、内部不整なバリウム貯留像を伴う腫瘤性病変が認められた。潰瘍からの生検では、腫大し大小不同の核を有する細胞の充実性増殖が認められ、腺管構造は認められなかった。腫瘍細胞は核が偏在し、一部に核分裂像が認められた。念の為に、免疫組織学的検査を行ったところ、c-Kit (+), CD34 (+), Vimentin (+), CAM5.2 (-), LCA (-), CD20 (-)であった。腫瘍マーカーは、NSE 18.56ng/ml, SCC 1.66ng/ml, シフラ 2.13ng/mlと上昇していた。CEA,CA19-9は正常範囲内であった。以上より、胃原発GISTと診断した。混合性呼吸障害により呼吸機能が悪く、手術適応とはならなかったため、2005年8月4日よりイマチニブ400mg/日の投与を開始した。治療開始約1か月後の上部消化管内視鏡検査では、内腔に突出する腫瘤性病変は縮小し、潰瘍底は上皮に覆われていた。CT上も7.3×6.3cm(縮小率68.5%)と著明に縮小し、内部の造影効果も減弱し、著効と考えられた。今回我々は、初回生検ではHE染色により未分化型胃癌を疑われたが、免疫染色によりGISTと診断され、イマチニブが奏効中のGISTの一例を経験したので、若干の文献的考察を加え、報告する。