日本消化器内視鏡学会甲信越支部

007 深達度診断にNBIが有効であった食道表在癌の1例

佐久総合病院 胃腸科
森田 周子、小山 恒男、宮田 佳典、友利 彰寿、堀田 欣一、田中 雅樹、高橋 亜紀子、古立 真一
佐久総合病院 内科
高松 正人、古武 昌幸、新井 陽子

 NBI (narrow band imaging) は広帯域 B フィルタの分光特性を狭帯域化して光の伝播深度を浅くした system で、粘膜表面の血管構築や微細構造を明瞭に描出し得る。今回我々は深達度診断にNBIが有効であった食道表在癌を経験したので報告する。 症例は60代の男性で、心窩部痛を主訴に受診した。日本酒1合と焼酎コップ2杯を毎日飲酒し、20本×40年の喫煙歴がある。精査目的の上部消化管内視鏡で食道Mt Lt領域に中央に隆起性病変を伴った発赤陥凹性病変を認めた。口側は発赤調で表面平滑な浅い陥凹性病変であり、中央の隆起部は粗大な顆粒状変化を伴う扁平隆起性病変で、肛門側は中央の隆起性病変より高さが低く発赤調で表面平滑な扁平隆起性病変であった。病変はいずれもトルイジンブルーにて淡染を呈し、送気量の変化で容易に変形したが、中央の隆起は厚みがあった。超音波内視鏡では第3層の菲薄化を認めたが、massiveな浸潤像は同定できなかった。食道透視では表層が粗大結節状で軽度の側面変形と硬化像を伴っていた。以上から病変中央の隆起部で深達度m3-sm1と診断した。NBIを併用した拡大内視鏡観察ではIV〜Viの血管パターンと多数のavascular area (AVA) を認めたが、AVAの長径が2mm以下であったことから深達度m2に留まる可能性が高いと判断してESDにて一括切除した。中央の隆起部位では腫瘍が膨張性に増殖して筋板に接しつつあったが、わずかに達しておらず、最終診断はSquamous cell carcinoma, m2, infα, ly0, v0, 0-IIa+IIc, 18x11mm, LM(-), VM(-), Mt, Lt.であった。 本例では通常観察では深達度m3〜sm1と思われたが、NBI を併用した拡大内視鏡観察による上皮内血管のパターンからはm2が疑われた。NBIによる上皮内血管やAVAの観察は、食道表在癌の深達度診断に有用な可能性がある。