日本消化器内視鏡学会甲信越支部

006 バレット食道腺癌術後食道壁内転移に対し局所治療としてESDが有効であった1例

佐久総合病院 胃腸科
友利 彰寿、小山 恒男、宮田 佳典、堀田 欣一、森田 周子、田中 雅樹、高橋 亜紀子、古立 真一

 【症例】患者は70代男性。2003年のEGDにて食道胃接合部にtype3'病変を認めた。病変部は伸展不良で、食道側への粘膜下進展もみられた。生検にてgroup V (sig)と診断され、明らかな遠隔転移を認めなかったため吻門部および下部食道切除術が施行された。病変の主座は食道側であり、最終診断はBarrett adenocarcinoma (sig>tub2), ss,ly2, v0, N2, M0, Stage III)であった。約1年後のEGDにて、下部食道に発赤調の陥凹を伴ったSMT様隆起性病変を認めた。陥凹辺縁は比較的整で、陥凹内には凹凸はみられなかった。拡大観察ではIPCLはみられず小型ピット様構造と微細血管の増生を認めた。生検にてgroup V (tub2>por2)を認め、バレット腺癌の食道壁内転移と診断した。胸部CTにて縦隔内に小さなLN腫大を認め、リンパ節転移も否定できなかったため化学療法を検討したが患者が拒否した。放置すると通過障害を来す可能性が高かったため、IDUSで筋層が保たれていることを確認し食道病巣をESDにて一括切除した。病理組織学的には上皮下・壁内に浸潤する腺癌を認め、Metastatic adenocarcinoma (por2>tub2), ly2, v0, LM(-), VM(+), 0-Ipl, 15x11mm, Mt, Post.であった。その後CTでは縦隔LN腫大は不明瞭化し、ESD後1年明らかな再発無く経過観察中である。【結語】バレット食道腺癌術後の食道壁内転移症例で、通常予後不良とされている。治療としては化学療法が選択されるが、奏功率は必ずしも十分とは言えない。放置すると通過障害を来たし患者のQOLを著しく損なうが、ESDによる局所切除は低侵襲でQOLを維持に有効であった。なお、食道壁内転移のESDにおいては、粘膜下層内に腫瘍が増生しており筋層を確認しづらいため、常に剥離部位を確認しつつ穿孔に留意した剥離を行う必要がある。