日本消化器内視鏡学会甲信越支部

005 気管分岐部憩室内に病巣を有する食道表在癌の治療経験

長野市民病院 消化器科
長谷部 修、立岩 伸之、武田 龍太郎、今井 康晴、長田 敦夫
同 外科
宗像 康博
同 病理
保坂 典子
長野赤十字病院 消化器科
松田 至晃

 【目的】気管分岐部憩室は牽引性・真性憩室であるが、憩室内の食道壁は固有筋層が断裂・欠損しておりEMRは禁忌とされている。しかし深達度m2までの表在癌であれば縮小手術や機能温存手術が望まれる。今回、胸腔鏡下手術およびESDを施行した2症例を経験したので報告する。【症例1】58歳・男性。黒色便を契機に上部消化管内視鏡検査を施行したところMt前壁、気管分岐部憩室内に20mmの0-IIc病変を発見された。通常観察では陥凹底は小顆粒状、TB染色では網目状濃染を示し、EUSでは憩室内の腫瘍部の層構造は不明瞭で4/5層部が肥厚し低エコーを呈していた。総合的には深達度m2の表在癌と診断し、胸腔鏡・腹腔鏡下食道切除術(2領域郭清)を施行した。組織学的にはIIc、20x15mm、SCC(well-mod)、m3(主体m2)、ly0、v0、n(−)であった。リンパ節が付着した憩室部の固有筋層は一部欠損し、粘膜下層から外膜に膠原線維が増生していた。第14日病日合併症なく退院。【症例2】81歳・男性。75歳時進行胃癌で胃全摘術施行(再発なし)。術後定期的内視鏡検査でMt左壁、気管分岐部憩室にまたがる30mmの0-IIc病変が発見された。通常観察では陥凹底はほぼ均一、TB染色では一部点状濃染を示し、深達度m2の表在癌と診断、十分なinformed consentのもとESDを施行した。憩室内の粘膜下層剥離時に小穿孔を生じ、クリッピングを施行した。術終了時より縦隔気腫・皮下気腫を生じたが縦隔炎は認めず、第4病日経口摂取開始、第8病日退院した。組織学的にはIIc、30x17mm、SCC、m2(主体m1)、ly0、v0、断端(−)であった。【結論】(1)気管分岐部憩室内の食道壁は炭紛沈着したリンパ節が透見される部位で固有筋層が欠損・菲薄化していた。(2)ESDは吸引法EMRに比べると穿孔を最小限に抑えることが可能と考えられた。(3)治療法の選択にあたっては、癌の大きさや深達度・年齢・全身状態・手術侵襲を考慮し、胸腔鏡下手術やESDを選択することが患者のQOLに貢献すると考えられた。