日本消化器内視鏡学会甲信越支部

002 感染を契機に急性増悪した食道癌術後のカイローマを伴う難治性乳び胸の一例

信州大学 医学部 消化器外科
鬼頭 宗久、小出 直彦、斉藤 拓康、鈴木 彰、花村 徹、宮川 眞一
信州大学 医学部 消化器外科、信州大学 医学部 集中治療部
小出 直彦

 【緒言】食道癌術後の乳び胸からカイローマ(リンパ嚢胞)を形成し、感染を契機に急性増悪を認めた症例を報告する。【症例】55歳、男性。Ut〜Ltの食道癌に対し、胸腔鏡下食道亜全摘・腹腔鏡補助下胃管再建術を施行した。術後右胸水の排液が200ml/日より徐々に増加し1000ml/日となったため、胸管損傷による乳び胸と診断し、術後第11病日に胸腔鏡下胸管結紮術を施行した。術中所見では胸部中部食道切除部近傍の胸管に不完全断裂およびリンパ液の漏出を認め、この部位の中枢側、末梢側の胸管をクリッピングした。術後、絶飲食とし胸水は徐々に減少していき100ml/日となったが、再手術後第11病日に無断で経口摂取をしたところ700ml/日まで増加した。その後も200ml/日前後の胸水を認め、再手術後第23病日に胸膜癒着療法を施行した。しかし胸水は減少傾向にはならなかった。胸部CTでは縦隔内にカイローマの形成が認められた。胸部XpとCTを定期的に施行しながら保存的に経過観察し、胸水は70ml/日前後となっていた。再手術後第82病日に発熱とWBC、CRPの上昇を認め、IVHカテーテルを抜去した。その1週間後の胸部Xpにてカイローマの急激な増大を認め、呼吸困難を生じた。カイローマに感染を合併し、その増大により気道系の圧排をきたしたと考えられ、緊急にカイローマ開放・ドレナージ、胸管結紮術を施行した。気管分岐部付近に線維性被膜を持ったカイローマを認め、これを切開すると500ml程度の胸水の排出が認められた。胸管本幹を確認し再度結紮した。詳細に観察するとその左側に胸管の副管あるいは太い分枝と考えられるリンパ管様の管腔を認めたため結紮した。緊急手術後第15病日より経口摂取を開始した。【結語】感染を契機に急性増悪した食道癌術後の乳び胸によるカイローマの一例を経験した。本例の乳び胸の合併には胸管本管以外に副管あるいは太い分枝の損傷が考えられ、反省の意味を含めて報告する。