日本消化器内視鏡学会甲信越支部

36,胃穿破により自然軽快した膵仮性嚢胞の1例

山梨大学医学部 第1内科
進藤浩子、清水健吾、門倉 信、深澤光晴、坂本 穣、北原史章、 中村俊也、佐藤 公、榎本信幸
同 放射線科
荒木拓次、荒木 力

 症例は44歳男性。主訴は心窩部痛。既往歴は14歳時に十二指腸潰瘍手術の既往がある。飲酒歴は1日焼酎3合26年間。2004年9月より食事、アルコール摂取により増悪する心窩部痛が出現し、近医を受診。膵頭部癌、閉塞性膵炎が疑われ、9月11日当院紹介入院となった。入院時CT上、膵頭部に40mm大の比較的境界明瞭な腫瘤を認め、膵体尾部で主膵管拡張、尾部周囲に脂肪織濃度の上昇、fluid collection、嚢胞を認めた。胆道の拡張は認めなかった。膵頭部腫瘤による閉塞性膵炎と診断し、抗生剤・メシル酸ガベキサートで加療を開始し、膵炎は軽快傾向であったが、9月25日突然の激しい上腹部痛、血圧低下あり、CTにて膵嚢胞の拡大を認め、嚢胞内と脾周囲に出血を認めた。膵仮性嚢胞内出血にともなう出血性ショックと診断し、緊急血管造影を施行した。腹腔動脈からの造影にて脾動脈分枝の末梢に仮性動脈瘤を認め、同部位より造影剤の血管外漏出がみられたため、塞栓術を施行した。集中治療により全身状態は改善し、膵嚢胞の内科的ドレナージを検討していたが、腹部超音波検査では嚢胞は自然経過で縮小が認められた。上部消化管内視鏡では、胃内には新鮮血が少量あり、胃体上部後壁の壁外圧排と20mm程の瘻孔を認め、瘻孔内に凝血塊と壊死物質が観察された。超音波では胃壁に連続する多房性嚢胞を認めた。膵嚢胞は胃穿破により自然にドレナージされる形となり、次第に縮小・消失し瘻孔も自然閉鎖したものと考えられた。
 膵仮性嚢胞の胃穿破例の報告は散見されるものの、膵仮性嚢胞内に出血をきたし、動脈塞栓術にて止血後、胃穿破により自然軽快した症例は稀であり、文献的考察を加え報告する。