日本消化器内視鏡学会甲信越支部

12, 腸上皮化生を背景として発生した広範な粘膜癌の1例

長野県立木曽病院 内科
吉岡美香、小松健一、高山真理、飯嶌章博
同 外科
北沢将人、北原弘恵、久米田茂喜
信州大学 病理学教室
下条久志

 症例は61歳男性。全身倦怠感とめまいを主訴に来院した。貧血と黒色便を認め、上部消化管内視鏡検査を施行したところ胃体上部後壁に出血性潰瘍が認められ、止血術を行った。後日施行した内視鏡検査では潰瘍は治癒傾向にあったが、体中部小弯にUc様病変が確認され、生検では腺癌であった。超音波内視鏡検査では第3層が一部で断裂しており、深達度はsmと推定された。手術適応と考えて行ったstep biopsyでは、正常粘膜と思われた胃体上部小弯後壁、噴門直下小弯側でも同様の腺癌が認められた。外科転科の後、胃全摘術を行った。全割による検索では体中部から上部小弯にわたる14.5cm×6.5cmの0-Ub+Uc病変であり、組織型は主にtub2、深達度は一部を除きMであった。背景には高度の腸上皮化生が存在し、癌部と異型腸上皮化生の境界は不鮮明であった。粘膜面に明らかな異常を来たさず進展した広範な粘膜癌の報告は稀であり、病理学的検討を加え報告する。