日本消化器内視鏡学会甲信越支部

70.壊死巣デブリードメントにて救命し、良好な創治癒を得たFournier症候群の1例

国立病院機構松本病院外科
前野一真、小池祥一郎、清水郁夫、江口隆、松本裕道、伊藤勅子、中村俊幸、岩浅武彦

Fournier症候群は壊死性筋膜炎を呈し重篤な経過を辿る症候群で予後不良であり、汚染創の治 療に難渋することが多い。今回、会陰部より発症し臀部から下腹壁まで急激に進展した壊死性筋 膜炎から敗血症性ショックおよびDICを併発したFournier症候群に対し、壊死巣デブリードメン トおよび人工肛門造設術を施行して救命し得、掻爬した創が良好な治癒傾向を示している1例を経 験したので報告する。症例は64歳、男性。既往歴に糖尿病はない。平成16年2月16日18時に 一人暮らしで自宅で倒れているところを隣人に発見され救急車で当院に搬送。初診時の意識は清 明で、会陰部から陰膿、右鼡径部の発赤腫脹を認め、強い異臭を放っていた。20時頃より意識混 濁、ショックに陥り、会陰部の腫脹が急激に増悪し、腹部CTで肛門から臀部、下腹壁におよぶ皮 下ガス像を認め、Fournier症候群と診断した。補液および昇圧剤にて血圧と尿量を確保し2月17 日朝よりエンドトキシン吸着を施行した後に同日夕より全身麻酔下で壊死巣のデブリーメントお よび人工肛門造設術を施行した。初診時には発赤腫脹のみであった会陰部の皮膚が手術時には一 部が黒色に壊死していた。人工呼吸器管理下で敗血症性ショック、DICに対し加療し、汚染巣の デブリードメントおよび洗浄消毒を行った。徐々に全身状態の改善を認め、第7病日に抜管した。 徐々に回復傾向を示していたが、3月15日より発熱、右側腹部痛が出現、腹部CTにて右側腹壁に 膿瘍を認めたため、3月17日膿瘍ドレナージ術を施行した。会陰部から下腹壁におよぶ創に対し、 壊死物質の除去、生食洗浄の後、肉芽形成促進のためのフィブラストスプレーやプロスタンディ ン軟膏の塗布を継続した結果、徐々に上皮化が進み閉創していった。現在、リハビリにより下肢 運動も回復し独歩している。