日本消化器内視鏡学会甲信越支部

66.心肺蘇生後に吐血をきたした1例

市立甲府病院消化器内科
三浦美香、大高雅彦、福田和典、嶋崎亮一、赤羽賢浩
市立甲府病院外科
巾芳昭

抗血小板薬・抗凝固療法中の消化管出血に対して、本邦では明確な治療方針は提示されていな い。今回、狭心症のため抗血小板薬使用中に心配蘇生後という特殊な環境下で上部消化管出血を きたし、保存的に治療できた1例を経験した。症例は79歳、男性。既往歴:狭心症のため塩酸 チクロピジンとアスピリンを内服。現病歴:心臓カテーテル検査中に心停止となり、心肺蘇生を 行った。心拍再開するも、吐血がみられ持続するため当院へ搬送。直ちに緊急上部消化管内視鏡 検査を行ったところ、食道は鮮血にあふれ、食道下部には凝血塊の付着がみられた。胃へ進める と鮮血の貯留を認めた。胃体上部小弯に凝血塊の付着した裂傷様の潰瘍性病変がみられ、辺縁よ りoozingを認めた。5%HSEを2ccx4回とhot biopsyによる電気凝固により止血できた。内視 鏡抜去時には食道の凝血塊は増大し、右側壁に血腫の出現が見られた。しかし、明らかな出血を 確認できないこと、心電図でSTの変動がみられたことから、内視鏡的止血術を中止した。絶飲食、 オメプラゾールの靜注とともに、心保護のためニトログリセリンと塩酸ドパミンの点滴靜注を 行った。内視鏡処置中よりのMAPとFFPの投与に加え、塩酸チクロピジンなど抗血小板薬の拮抗 作用を期待して、(家族同意のもと)血小板輸血を行った。10時間後に再吐血し内視鏡検査をす るも活動性の出血は認められなかった。その後は吐血を認めず、vital signと心電図の安定が見ら れた。6病日後の内視鏡検査では食道下部に2個の潰瘍と胃体上部小弯の数条の縦走潰瘍を認めた。 潰瘍病変の辺縁からは内視鏡のコンタクトによりoozingを認めたが、容易に止血した。抗血小板 薬・抗凝固療法中の消化管出血に対する止血は、薬剤の中止が原則であるが、緊急対応と基礎疾 患の増悪が課題である。今回、緊急手術が困難な条件下での加療を余儀なくされた経験から、抗 血小板薬・抗凝固療法中の消化管出血に対しての治療ガイドライン等の作成の必要性が痛感され た。