日本消化器内視鏡学会甲信越支部

57.切開剥離法による内視鏡切除を行い、組織学的検討が可能であったInflammatory fibroid polyp(IFP)併存胃粘膜内癌の一例

新潟大学教育研究院医歯学系消化器内科学分野
窪田智之、小林正明1、東谷正来、佐藤祐一、杉村一仁、野本実、青柳豊
新潟大学教育研究院医歯学系分子病態病理学分野
味岡洋一
新潟大学医歯学総合病院光学医療診療部
佐藤祐一、成澤林太郎

切開剥離法による内視鏡的切除を行い、組織学的検討が可能であったInflammatory fibroid polyp(IFP)併存胃粘膜内癌の一例を経験した。術前の内視鏡診断では潰瘍瘢痕合併を疑われた が切除標本の検討により粘膜のひきつれ様所見は病変部筋板直下のIFPによる変化と考えられた。 検索した限りでは胃癌に近接併存するIFPの報告は8例しかみられず、内視鏡治療にて切除し得た 報告症例は1例だけであった。症例は49歳男性。上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部大弯後壁よ りに中心部に小びらんを伴う10mmの発赤扁平隆起を認め、生検でGroup Iであった。一年後の 内視鏡検査にて同部は15mmとやや増大し、中心の星ぼう状陥凹も広がっていた。隆起の境界は 不明瞭であり中心陥凹に一致して発赤がみられ、陥凹部に限局した粘膜内高分化腺癌と診断した。 病変中央に集中するわずかなひきつれを認め、Ul-IIの潰瘍瘢痕合併が疑われた。中心陥凹部の生 検からGroup V、adenocarcinoma (tub1)と診断された。潰瘍瘢痕合併が疑われたため切開剥 離法による内視鏡的切除を施行した。局注時の挙上は良好であった。組織学的には陥凹部のみに 高分化腺癌が存在し、この直下で粘膜下層に多数の好酸球を含む炎症細胞浸潤、線維芽細胞の増 殖が認められ、IFP併存の腺癌と考えられた。深部断端はIFPも含めて陰性で、明らかな潰瘍瘢痕 はなく、IFPがわずかなひきつれの原因と考えられた。近年内視鏡的粘膜切除術の技術の進歩に伴 い、適応病変の拡大が提言されているが潰瘍瘢痕合併が疑われる場合に本例のようなIFP併存例も あることを念頭におかなければならないと考えられた。