日本消化器内視鏡学会甲信越支部

55.酢酸散布下観察が進展範囲診断に有用であった早期噴門部癌の1例

佐久総合病院胃腸科
洪英在、小山恒男、宮田佳典、友利彰寿、堀田欣一、森田周子、田中雅樹、竹内学、米湊健、比佐岳史
佐久総合病院内科
古武昌幸、高松正人

症例は77歳、男性。上部消化管内視鏡(以下EGD)で噴門部胃癌と診断され紹介となった。 EGDにおいて噴門部後壁に境界不明瞭な不整形の発赤陥凹病変を認め、口側は食道胃接合部を越 えて扁平上皮下に進展していた。肛門側境界は通常観察、インジゴカルミン散布下観察では不明 瞭であったが、拡大観察では異常血管と不整pitの領域として明瞭に認識できた。1.5%酢酸散布下 の通常観察において非腫瘍粘膜は白色調に変化したが、病変部の変色は軽度であったため病変範 囲は明瞭になった。また、酢酸散布下の拡大観察ではpitがより明瞭に観察された。以上から 0IIc+IIa型の分化型粘膜内癌と診断しESDにて一括切除した。最終診断はadenocarcinoma, tub1, 0IIc, m, ly0, v0, LM(-), VM(-),28×12mm, U, Postであった。 1.5%酢酸散布を行うと表層細胞の粘液が白濁化するためpit patternをより明瞭に観察することが できる。また、酢酸散布による白濁化は可逆性であり、数分で白濁は消失し元の粘膜構造へ戻る。 酢酸散布後は血管透見が不良となるため異常血管の観察は不可能になるが、数分後には再び血管 構造を観察することができるため、pit patternと異常血管の比較検討が可能である。 また、本例では酢酸散布により通常観察でも進展範囲を明瞭に認識することができた。非腫瘍上 皮細胞は粘液が豊富であるため白濁化したが、腫瘍細胞は粘液が少ないため白濁化が軽度であっ たことが原因と考えられた。このように酢酸散布は拡大観察のみならず通常観察でも有用であり、 内視鏡診断における新たな有力な手法と思われた。