日本消化器内視鏡学会甲信越支部

54.胃癌に対するTS-1/CDDP併用療法により生じた薬剤起因性重症再生不良性貧血の一例

長野赤十字病院
山川耕司、張淑美、竹中一弘、平野大、金児泰明、倉石章、森宏光、松田至晃、和田秀一

症例は66歳女性。平成15年10月初旬より動悸を自覚するようになり、近医を受診し貧血と CA19-9高値を指摘され、当科を紹介された。腹部CTでは膵頭部近傍の腫大したリンパ節と思わ れる腫瘤が十二指腸下行脚及び膵頭部と一塊となっており、固有肝動脈、門脈への浸潤が疑われ た他、肝S2に2cm大の転移を認めた。上部消化管内視鏡検査では胃前庭部後壁の2型腫瘍を認め、 生検でpor2〜tub2と病理診断された。以上の所見より胃原発の根治的切除不能の胃癌と判断し、 11月6日よりTS-1/CDDP併用療法(TS1 80mg/m2/day, day1-day21, CDDP 60mg/m2, day8)を開始した。第1クール施行直後にGrade 3の下痢を認めたため、第2クール以後は両剤の doseを約80%に減量した。また、第1クール終了後にGrade 1の血小板減少症を認めた。第2 クール施行後の評価では原発巣は小潰瘍の所見となり、肝転移は消失しリンパ節転移も著明な縮 小を認めた。しかし第2クール施行後に血小板の減少が進行し4週後にはGrade 2の血小板減少症 が認められたため、第3クールは開始予定より4週遅い2月12日に血小板の回復(9.2X104/μl) を確認して開始した。第3クール施行中には副作用や血小板減少の進行を認めなかったが、第3 クール終了後WBC 3270/μl (neutro 970/μl), plt 3.0X104/μl, Hb 6.8g/dlと汎血球減少症 の所見を認めため、平成16年3月12日入院となった。入院後さらに汎血球減少が増悪するためGCSF 製剤の投与、頻回のMAPおよび血小板輸血を継続した。4月7日に施行した骨髄穿刺では高度 低形成骨髄(造血実質:脂肪組織=1:10)の所見であった。その後もWBC 1000以下(neutro 100以下)、plt 0.5〜2万以下で経過し、5月中旬より原発巣からの慢性出血もみられるようにな り6月26日永眠された。当初高度の骨髄抑制と診断していたが、治療後3ヶ月以上回復が認められ なかった経過より薬剤起因性重症再生不良性貧血と診断した。胃癌に対するTS-1/CDDP併用療法 はその有効性と簡便さから有力な治療となりつつあるが、本例のような症例も念頭に置くべきと 考えられた。