日本消化器内視鏡学会甲信越支部

53.同時性多発胃癌の1例

長野県立木曽病院内科
吉岡美香、高橋俊晴、高山真理、沖山葉子、小山貴之、小林永幸、飯嶌章博
長野県立木曽病院外科
北沢将人、小松大介、久米田茂喜
信州大学病理学教室
大谷方子

症例は72歳男性。検診で免疫学的便潜血検査を施行したところ陽性であり、スクリーニング目 的で上下部消化管内視鏡検査を行った。下部消化管内視鏡検査では過形成ポリープのみであった が、上部消化管内視鏡検査では噴門部(6-7cm大、II型)、胃角部前壁(3cm大、IIa+IIc)およ び前庭部(2cm大、IIc)にそれぞれ独立する腫瘍性病変が認められた。組織学的にはそれぞれ乳 頭状腺癌、低分化腺癌、低〜高分化型腺癌と分化度が異なっており、多発胃癌の診断にて胃全摘 術(Roux-Y再建)、リンパ節郭清D2および脾摘術を施行した。手術標本を検索すると噴門部の 腫瘍は2型の進行癌、胃角部、前庭部の腫瘍はIIcおよびIIa+IIcの早期癌であり、組織型はそれぞ れ乳頭状腺癌、低分化腺癌(por1<por2)、高分化腺癌(tub1)であった。互いの腫瘍は連続 せず正常胃粘膜が介在し、多発癌の定義に合致していた。同時性多発性胃癌は全胃癌の6〜15% を占めるといわれており近年増加傾向であるが、萎縮胃粘膜を背景とした早期分化型腺癌の多発 例の報告が多い。今回の症例はHelicobacter pylori陽性の萎縮胃粘膜を背景にした多発癌である が、3ヶ所の病変の組織型および分化度がそれぞれ異なっており、そのような症例は比較的稀であ るため報告する。