日本消化器内視鏡学会甲信越支部

51.早期食道癌ESD6日後に遅発性穿孔を来したが保存的に治療し得た1例

佐久総合病院胃腸科
田中雅樹、小山恒男、宮田佳典、友利彰壽、堀田欣一、森田周子、米湊健、竹内学、比佐岳史
佐久総合病院内科
古武昌幸、高松正人

食道EMRやESDに伴う穿孔の報告は多いが、いずれも治療中に穿孔が確認された症例であり、 遅発性穿孔の報告はない。当院で2000年4月から2004年5月に施行したフックナイフによる食 道ESD 96例中、穿孔例はなく縦隔気腫7例(6.9%)であったが、今回ESD6日後に遅発性穿孔 を来した症例を経験したので報告する。症例は73歳、女性。2002年3月に胸部中部食道右壁の dysplasiaに対してAPC 治療を施行した。2004年3月の内視鏡検査にて同部に境界明瞭な淡染帯 を認め、食道表在癌,SCC,0-IIb,Mt,Rt,m1,30×15mmの診断にてESDを施行した。APC後の影 響で粘膜下層に高度の線維化を伴い、ヒアルロン酸ナトリウムを用いたが病変の挙上は不十分で あった。粘膜下層へ潜り込むことに難渋し、透明フードの先端にて内輪筋を一部損傷したが、穿 孔は認めず約2時間で治療した。治療直後の胸部CTにて縦隔気腫を認め38度の発熱を来したが、 絶食・抗生剤による保存的治療で2病日には解熱した。4病日の内視鏡検査でも穿孔は認めなかっ たが、念のために絶食を継続した。6病日の内視鏡検査でESD潰瘍底に2mm大の小穿孔を認め、 食道造影では縦隔に約5cmのリークがあり遅発性穿孔と診断した。食道内腔への造影剤排出は速 やかでドレナージ良好なこと、発熱なく全身状態良好なことより7病日に抗生剤を中止した。11 病日の食道造影ではリークを認めず経口摂取を開始した。16病日の内視鏡検査で穿孔はpin hole まで縮小し23病日には閉鎖していた。最終診断はSCC, 0-IIb, Mt, Rt, m1, 25×13 mm, infβ, ep,ie(-), ly0, v0,であった。経口摂取再開後に遅発性穿孔を来した場合、特発性食道破裂同様に厳 しい予後が予測されるため、内輪筋損傷時には1週間程度絶食期間を延長することが重要と考え られた。