日本消化器内視鏡学会甲信越支部

47.2年間の観察で形態変化を示しPPI投与が診断に有効であった食道胃接合部癌の1例

佐久総合病院胃腸科
福本怜、小山恒男、宮田佳典、友利彰寿、堀田欣一、森田周子、竹内学、米湊健、田中雅樹、比佐岳史
佐久総合病院内科
高松正人、古武昌幸

症例は56歳、男性。2002年に施行した上部消化管内視鏡検査(以下EGD)で食道胃接合部の 右壁SCJ直下に、白苔に覆われた直径5mm大の褪色調Is型隆起性病変を認めたが、逆流性食道炎 を伴っていたため炎症性ポリープと診断し経過観察となった。2003年のEGDでは、隆起性病変 頂部の白苔は部分的に消退し、周囲に発赤陥凹が出現したが、炎症性ポリープおよびmucosal breakと診断された。2004年のEGDで隆起は消失し境界不明瞭な発赤陥凹に変化していた。分化 型癌を疑って採取した生検にて異型上皮を認めたが、炎症異型との鑑別が困難であった。PPI投与 2ヶ月後の内視鏡再検にて逆流性食道炎は改善したが、同陥凹性病変は不変であり、逆流性食道 炎に伴うビランは否定的であった。また拡大観察にて扁平上皮下に口径不同な異常血管を認めた ことより, 0 - I I a + I I c 型接合部腺癌, 深達度M と診断しE S D を施行した。最終診断は Adenocarcinoma, 0-IIc, tub1, T1(m), ly0, v0LM(-), VM(-), 10×7mm, Aeであった。本例で は食道胃接合部癌の形態が2年間でIs型からIIc型へと変化したが、逆流性食道炎によるびらん再生 の繰り返しが肉眼型の変化に影響を与えたことが推察された。また、再生異型により生検診断も 難しかったためPPI投与後に再検を施行した。逆流性食道炎に伴うびらんや炎症性ポリープはPPI 投与で速やかに消退するが本例では大きな変化はなく、PPI投与後の拡大内視鏡再検で異常血管を 認めたことから癌と診断し得た。以上より、逆流性食道炎に伴う接合部病変の診断にPPI投与後の 拡大内視鏡検査は有用と思われた。