日本消化器内視鏡学会甲信越支部

46.魚骨による食道穿孔と食道周囲膿瘍を発症した1例

新潟労災病院内科
渡辺庄治、川端英博、麻植ホルム正之、高瀬郁夫
新潟労災病院外科
北原光太郎、藤田加奈子、楠田慎一、伊達和俊

【緒言】食道異物はしばしば経験する偶発症であるが、異物が魚骨である場合には食道穿孔、食 道周囲膿瘍あるいは縦隔炎などの重篤な合併症を惹起することが少なくない。今回われわれは魚 骨による食道穿孔から食道周囲膿瘍を発症し、保存的に治癒し得た1例を経験したので、報告する。 【症例】患者は76歳男性。主訴は心窩部痛。平成16年3月30日の夕食に魚を摂食した。食直後よ り食物のつかえるような感じがあった。自然に軽快すると思い放置していた。翌31日は粥食とし たが、症状は不変、心窩部痛も出現したため夕方に近医受診した。4月1日当科紹介受診。上部消 化管内視鏡検査にて切歯より35cmの食道壁に刺入した魚骨を認めた。ただちにオーバーチューブ を挿入し、鰐口型把持鉗子を用いて直視下で抜去した。胸部CTにて胸部下部食道周囲に径30mm 大の膿瘍を認めた。中心静脈栄養管理と抗生剤投与による治療を開始した。入院3日後には自覚症 状は軽快した。入院2週間後の胸部CTでは食道周囲膿瘍はほぼ消失していた。また上部消化管内 視鏡検査では魚骨刺入部の潰瘍瘢痕は認識できなかった。食道穿孔は治癒したと判断し、食事を 開始した。食事開始後も心窩部痛は認めず。炎症の増悪もなく経過良好のため4月23日(入院第 23病日)に退院した。【結論】魚骨により食道穿孔と食道周囲膿瘍を来したが、保存的治療に よって治癒した1例を経験した。魚骨誤嚥の際には診断から治療に至るまでの迅速な対応が必要と 思われる。