日本消化器内視鏡学会甲信越支部

44.イレウスにて発症した膵尾部癌の1例

長野県立木曽病院外科
北沢将人、小松大介、久米田茂喜
長野県立木曽病院内科
高山真理、沖山葉子
信州大学病理
大谷方子

症例は71歳男性。腹部膨満感、腹痛を主訴に来院し、イレウスと診断され入院となった。腹部 CT検査上、膵尾部に明らかな腫瘍性病変は指摘し得なかったが、それに接する下行結腸の壁肥厚 と内腔の狭小化および口側腸管の拡張像を認めた。大腸内視鏡検査にて下行結腸の脾弯曲近傍に 全周性の狭窄を認め、軽度発赤を認めたものの粘膜面は保たれており壁外性の圧迫が強く疑われ た。腫瘍マーカーはCEA 5.7ng/ml、CA19-9 27540U/mlと上昇しており、膵尾部癌の結腸直 接浸潤によるイレウスと診断し手術を施行した。膵尾部に5cm大の腫瘍が存在、結腸脾弯曲部に 直接浸潤し、それより口側腸管が拡張していた。肝両葉の多発転移と腹膜播種を認めた。腫瘍は 周辺臓器に強く癒着し、浸潤が疑われたため、膵尾部切除、結腸左半切除、脾摘、さらに胃・左 副腎・左腎・大網部分切除を行った。病理組織学的には膵尾部の高分化型管状腺癌で、大腸、脾 臓、大網への浸潤を認めた。イレウスにて発症した膵癌は自験例を含めて11例が報告されている のみであり、極めてまれであるが、その予後は不良である。直接浸潤によるものは8例(自験例含 む)、腹膜播種によるもの3例であった。イレウスの原因疾患として、膵癌も鑑別診断の1つとし て考慮すべきと考えられた。