日本消化器内視鏡学会甲信越支部

38.上腹部に皮下出血を伴い,経皮的仮性嚢胞穿刺・ドレナージ術が有効であった膵炎の1例

新潟県立中央病院内科
小堺郁夫、小堺郁夫、田覚健一、田村康、丸山貴弘、渡邉史郎、藤原敬人

症例は65才男性, 若年時より大酒家であった.平成元年胃癌にて胃部分切除術を施行. 翌年癒着性 腸閉塞にて手術歴あり.平成16年7月20日より激しい腹痛が出現したため、当科外来受診したが, 一時軽快した. 7月22日入浴後より上腹部の術創周囲に皮下出血を認めた. 翌23日には菱形状に皮 下出血が拡大し,腹痛も増強したため再診. 血圧88/54mmHgと低下し,RBC 277x104/μl, Hb8.5g/dl, Ht26.6%と貧血も進行していた. 腹腔内出血と診断し,腹部US,CTを施行した. 腹部 USでは膵頭部から臍右腹部に10cm大の腫瘤で,実質性エコーと低エコーの混在する不均一な腫瘤 を認めた. Doppler USでは腫瘤辺縁にわずかな血流が認められるのみで,動脈瘤や出血部位は指摘 できなかった. 腹部CTでは膵鈎部右側に9.5 x 5.3 cm大のやや高濃度の腫瘤を認めた. 腫瘤は全 く造影されず,膵周囲(前腎傍腔まで) に浸出液の貯留を認めた. 嚢胞内出血と診断し,血管造影を施 行. 右結腸動脈と回結腸動脈が伸展されて,両血管の間に大きな無血管領域が出現していたが,仮性 動脈瘤や出血点は確認されなかった.蛋白分解酵素阻害剤の大量持続点滴治療を開始したところ,腹 痛は軽快した.しかし腫瘤の腫大傾向を認めたため, 8月2日腹部CT再検. 新たな出血は認めなかっ たが,仮性嚢胞は10cm x 6.5cmと増大していた. 治療として,US誘導下経皮的嚢胞穿刺・持続ド レナージ術を選択した. 排液は濃血性でAMY 2 IU/l, LDH 1682IU/lであった. その後順調に経 過し, 穿刺26日後の腹部CTでは嚢胞は6.5cm x 4.5cmへと縮小した.
本例では膵炎に伴って上腹部に術創を中心としてほぼ対称的に皮下出血が出現したことが特徴 的であった.仮性膵嚢胞に対する経皮的ドレナージは,最も低浸襲で治癒率も高いと報告されている が,本例でも奏効したと考えられた.