日本消化器内視鏡学会甲信越支部

37.血清IgG4値は正常だが、膵にIgG4陽性形質細胞の著明浸潤を認めた自己免疫性膵炎

依田窪病院外科
寺田弥穂、小澤昭人、石橋久夫
依田窪病院内科
横山太郎、北原桂
信州大学医学部内科学
浜野英明、越智英泰

76歳男性、アルコール歴3合/日、50年。耐糖能障害で近医通院中、肝胆道系酵素の上昇を指摘 され当院紹介。血液検査では、肝胆道系酵素、CA19-9の上昇を認めたが、γグロブリン、IgGの 上昇は認めず、抗核抗体も陰性であった。腹部CT、USにて肝内胆管、総胆管および膵管の拡張を 認めたが、膵頭部、胆管に明らかな腫瘤陰影を認めなかった。ERCPでは下部胆管に不整狭窄を認 め、その上流胆管は拡張していた。膵管はほぼ全域に渡り、主膵管・分岐膵管の不整拡張を認め、 慢性膵炎の所見であった。胆汁および胆管擦過細胞診を複数回施行するも悪性細胞はみられな かったが、下部胆管癌を否定できないため、informed consentの上、幽門輪温存膵頭十二指腸切 除術を施行した。病理診断では、胆管・胆嚢、膵、十二指腸乳頭部に腫瘍細胞は認めず、膵組織 はリンパ球・形質細胞・好酸球の浸潤と線維化、更に腺房細胞の萎縮と消失を認めた。また、同 様の炎症細胞浸潤と線維化は胆管壁にも認められた。IgGサブクラス免疫染色ではIgG4陽性形質 細胞の浸潤を多数認め、自己免疫性膵炎とそれに合併した胆管炎と診断が確定した。
本例は術後測定した血清IgG4は正常であり、明らかな膵腫大もなく、自己免疫性膵炎に典型的 膵管像ではなく、日本膵臓学会の診断基準には該当しない。しかし、最終病理は自己免疫性膵炎 に典型的であった。自己免疫性膵炎の大多数では血清IgG4高値であるが、本例は、1)血清IgG4が 正常でも病変部には多数のIgG4陽性形質細胞が浸潤している可能性と、2)典型的な血液画像所見 を呈しない例の存在を示唆する大変興味深い症例と考えられる。