日本消化器内視鏡学会甲信越支部

35.膵内副脾に生じたepithelial cystの1例

飯田市立病院外科
北川敬之、金子源吾、堀米直人、平栗学
飯田市立病院内科
岡庭信司、中村喜行、海野洋、白籏久美子
飯田市立病院臨床病理科
伊藤信夫、金井信一郎

症例は57歳、女性。平成16年3月人間ドックの腹部超音波検査で膵尾部腫瘍を指摘されたため 精査を行った。CTで同腫瘍は脾門部に近い膵尾部に存在し長径18mm、内側壁に三日月状の充実 性部分を伴う嚢胞性病変で、造影にて早期から膵実質より強い造影効果を認め、遅延相まで持続 した。超音波内視鏡検査で、腫瘍は肉厚で不整な壁を伴う嚢胞性病変で、仮性嚢胞や充実性腫瘍 の嚢胞変性が考えられた。血液性化学検査では、アミラーゼ、血糖値に異常なく、インスリンは 正常値であったが、グルカゴンが186Pg/mlと上昇していた。腫瘍マーカーはCEA:6.3ng/ml、 DUPAN-2:302U/mlと上昇を認めたが、CA19-9、エラスターゼ1は正常値であった。なお、 この腫瘍は2000年に撮影した腹部CTでは認めなかった。また、経過中特に自覚症状はなかった。 以上より嚢胞変性を伴う非機能性膵内分泌腫瘍と診断し、8月24日に手術を施行した。腫瘍は脾 門部に接した膵尾部に一部埋没する形で存在し、大きさは母指頭大で、表面平滑、境界明瞭、弾 性硬であった。まず膵尾部切除を試みたが、剥離した脾門部からの出血が容易に止血されなかっ たため、脾摘も行った。腫瘍は嚢胞性で、内溶液を術中細胞診に提出したところ、上皮成分は含 まれないとの結果であった。永久病理診断では、嚢胞周囲は膵組織に囲まれ、内腔面は一部粘液 上皮を含む重層扁平上皮に被われた線維性の壁を有しており、さらにその周囲には脾組織が存在 したことより膵内副脾に生じたepithelial cystと診断された。術後経過は良好で、第10病日軽快 退院となった。本例は比較的まれな症例と考え、若干の文献的考察を加え報告する。