日本消化器内視鏡学会甲信越支部

27.肝細胞癌破裂に対する肝切除後約18年後に再切除治療された異時性多中心肝細胞癌の1例

山梨大学第一外科
雨宮秀武、松田政徳、河野寛、鈴木哲也、藤井秀樹

患者は70歳の男性。1986年10月、B型肝硬変に併存した破裂肝細胞癌の診断で肝左葉切除、 胆嚢摘出術を受けた。肝の内側区域に血腫を伴った最大径4.0cmの破裂性腫瘍が存在した。組織 学的に腫瘍は索状型の中分化型肝細胞癌で、非腫瘍部は肝硬変の所見であった。術後5FU系の内 服薬を長期間服用した。初回手術17年後の2003年10月よりAFPが軽度上昇し、その後、漸増 した。CT上は、肝切除端近くの前区域に低吸収域が認められたが、肝細胞癌の再発とは断定でき なかった。2004年6月の検査では、AFP 96.2ng/ml(L3分画44%)、PIVKA-II 97mAU/mlとと もに増加し、CT上も前区域に最大径3.0cmの濃染像が認められた。肝細胞癌再発の診断で入院し た。肝障害度はA(ICGR15は27.9%)で、HBsAg(+)、HBsAb(-)、HBeAg(-)、HBeAb(+)、 HBcAb(+)、HCV-Ab(+)であった。腹部CT検査では肝前区域に3.0cmの低吸収域が認められ、造 影にてエンハンスされた。MRI検査でこの腫瘤は、T1強調像でやや低信号、T2強調像ではやや高 信号に描出され、SPIO投与後は相対的に高信号となった。血管造影検査ではA5に腫瘍濃染像が 認められた。CTAPではperfusion defectを呈し、CTAでは不均一にenhanceされた。2004年7 月、単発の肝細胞癌再発の診断で肝前区域部分切除を実施した。肝右葉は肥大のため変形し、手 術創の背側に肝十二指腸間膜が癒着し、肝切除にあたり注意が必要であった。切除腫瘍の肉眼所 見は最大径2.8cmの単純結節型の腫瘍で被膜浸潤を認め、隔壁が存在した。組織学的には、初回 手術時の組織とは異なり、多彩な像を呈した中分化型肝細胞癌であった。非腫瘍部は肝硬変で あった。本症例は長期の無再発期間の後に発生した多中心性肝細胞癌で、再治癒切除が可能で あったきわめてまれな症例と考えた。