日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20.発熱、肝機能障害、白血球減少、多彩な内視鏡所見を呈した腸チフスの一例

北信総合病院消化器科
堀内亮郎、山本力、吉岡篤史、柴田早苗、藤井俊光、林島純子1、田尻和男
北信総合病院病理科
篠原直宏
東京医科歯科大学消化器内科
田尻和男

症例は39歳女性。身体所見では発熱、頻脈のほかは特記すべき所見を認めず、腹部は平坦軟で 自発痛、圧痛ともに認めなかった。検査所見では白血球減少、肝障害、腹部超音波検査では盲腸 から上行結腸の壁肥厚、回盲部周囲のリンパ節腫脹を認めた。大腸内視鏡検査では回腸終末の腸 間膜付着側対側に縦走する小隆起、盲腸では虫垂孔近傍に強く発赤、腫脹、多発する小びらん、 上行結腸には散在する卵円形潰瘍をみとめた。入院4日目に血液培養および粘膜培養からチフス 菌が検出され、腸チフスと診断しレボフロキサシン600mg投与開始したところ、発熱などの臨 床症状、炎症反応、肝障害いずれも改善し、入院10日目に軽快退院となった。感染経路は夫の糞 便よりチフス菌が検出されたこと、本人の海外渡航歴がないことから、無症候性保菌者である夫 からの家族内感染と考えられた。腸チフスは比較的まれな疾患であること、主症状が発熱とい う鑑別が多岐にわたるものであること、腹痛下痢などの腹部症状を呈さないことが多いことから 診断に難渋する場合がある。また内視鏡像は観察のタイミングや治療による修飾のため古典的な 回盲部潰瘍以外の多彩な所見がみられることが指摘されているが、感染予防の問題から腸チフス に内視鏡を施行される機会が少ないため、腸チフスの内視鏡像の報告は少なく、さらに多数例の 検討が望まれる。以上の点から貴重な症例と考えられたため、文献的考察を加えて報告する。