日本消化器内視鏡学会甲信越支部

16.アルゴンプラズマ凝固療法が著効した全周性の放射線性出血性直腸炎の1例

新潟県立中央病院内科
小堺郁夫、田覚健一、田村康、丸山貴弘、渡邉史郎、藤原敬人

症例は74才男性. 平成15年2月から4月まで前立腺癌に対し外照射70Gyの放射線治療を施行さ れた. 同年11月より排便時に新鮮血の混入を認め,当科受診となった. 12月8日大腸内視鏡(CF)施 行. 直腸下部全周性に発赤性の粘膜と毛細血管の拡張を認めた. 放射線照射野に一致し,生検でも粘 膜固有層に血管の拡張を指摘され,放射線性直腸炎(Sherman分類1度)と診断した. サラゾスル ファピリジン内服開始したが,下血量は増加した. 平成16年1月1日顔色不良と動悸にて救外受診. RBC 245 x104/μl,Hb 6.9 g/dl, Ht 22.0% と著明な貧血とECGにてST低下がみられたため,循 環器科へ入院となった. 禁食の上で輸血・中心静脈栄養にて動悸は軽快し,ECGのST低下も消失し た. 1月6日ニフレック前処置CFにては,Rbに全周に出血領域が散在するために,粘膜病変は観察不 十分であった.前処置なしで再検したところ,Rb全周に著明に発達した樹枝状の毛細血管の拡張が 出現していた. 以上より排便刺激にて極めて易出血性であると考えられ,経口摂取は不可能と診断し た. アルゴンプラズマ凝固療法(APC)の適応と考えて出力30W, アルゴンガス流量l.0 l/minにて3 回に分けて治療を施行した.各治療後7日めのCFにて焼灼部に厚い白苔を伴う潰瘍形成を認めた. 治療に伴う疼痛もなく,焼灼部に軽度の狭窄を認めたのみで治療継続は可能であった. 全周焼灼終了 後,経口摂取開始したが, 便周囲に少量の血液付着を認めたのみで,貧血も進行せず,排便も正常で あった.治療4ヶ月めのCFでは(1)Rbの軽度の狭窄(2)APC後の多発する浅い潰瘍瘢痕(3)毛細血管拡 張の遺残が認められた. 治療6ヶ月以降に週に1回,少量の下血と軽度貧血の進行を認め,再度APC 治療を追加した.
非接触型で,浅い深度で均一に凝固焼灼されるAPC療法は全周性の放射線性出血性直腸炎にも低 侵襲で,治療による苦痛もなく有効な治療と考えられた.