症例は74才男性. 平成15年2月から4月まで前立腺癌に対し外照射70Gyの放射線治療を施行さ
れた. 同年11月より排便時に新鮮血の混入を認め,当科受診となった. 12月8日大腸内視鏡(CF)施
行. 直腸下部全周性に発赤性の粘膜と毛細血管の拡張を認めた. 放射線照射野に一致し,生検でも粘
膜固有層に血管の拡張を指摘され,放射線性直腸炎(Sherman分類1度)と診断した. サラゾスル
ファピリジン内服開始したが,下血量は増加した. 平成16年1月1日顔色不良と動悸にて救外受診.
RBC 245 x104/μl,Hb 6.9 g/dl, Ht 22.0% と著明な貧血とECGにてST低下がみられたため,循
環器科へ入院となった. 禁食の上で輸血・中心静脈栄養にて動悸は軽快し,ECGのST低下も消失し
た. 1月6日ニフレック前処置CFにては,Rbに全周に出血領域が散在するために,粘膜病変は観察不
十分であった.前処置なしで再検したところ,Rb全周に著明に発達した樹枝状の毛細血管の拡張が
出現していた. 以上より排便刺激にて極めて易出血性であると考えられ,経口摂取は不可能と診断し
た. アルゴンプラズマ凝固療法(APC)の適応と考えて出力30W, アルゴンガス流量l.0 l/minにて3
回に分けて治療を施行した.各治療後7日めのCFにて焼灼部に厚い白苔を伴う潰瘍形成を認めた.
治療に伴う疼痛もなく,焼灼部に軽度の狭窄を認めたのみで治療継続は可能であった. 全周焼灼終了
後,経口摂取開始したが, 便周囲に少量の血液付着を認めたのみで,貧血も進行せず,排便も正常で
あった.治療4ヶ月めのCFでは(1)Rbの軽度の狭窄(2)APC後の多発する浅い潰瘍瘢痕(3)毛細血管拡
張の遺残が認められた. 治療6ヶ月以降に週に1回,少量の下血と軽度貧血の進行を認め,再度APC
治療を追加した.
非接触型で,浅い深度で均一に凝固焼灼されるAPC療法は全周性の放射線性出血性直腸炎にも低
侵襲で,治療による苦痛もなく有効な治療と考えられた.