日本消化器内視鏡学会甲信越支部

11.プロテインS欠損症に起因すると考えられた門脈・上腸間膜静脈血栓症による空腸壊死の一例

信州大学医学部附属病院消化器外科
芳澤淳一、古澤徳彦、丸田福門、宮川眞一
信州大学医学部附属病院消化器外科、救急集中治療部
小出直彦、古澤徳彦

【緒言】プロテインSはビタミンK依存性の血漿蛋白で、凝固因子を阻害することで凝固を抑制す る。先天性プロテインS欠損症は常染色体優性遺伝を示し、凝固が亢進する結果、繰り返す深部静 脈血栓症や肺梗塞、まれに腸間膜静脈などの血栓症を引き起こすことがある。私達は、プロテイ ンS欠損症を起因とすると考えられた門脈・上腸間膜静脈血栓症による空腸壊死の一例を経験した ので報告する。【症例】53歳男性。既往症、家族歴に特記事項なし。2004年3月嘔吐、下痢を自 覚し、当院内科を受診、急性腸炎の診断で加療を受け軽快した。4月、発熱、下腹部痛、嘔気、腹 部膨満を自覚し、当院内科を受診した。軽度の小腸ガス像を認め、イレウスの診断にて入院した。 入院後、絶食、胃管の挿入、抗生剤投与、輸液管理をされていたが、翌日、下腹部反跳痛、筋性 防御が出現した。腹部単純X線にて著明に拡張した小腸ガス像、腹部CT検査にて門脈、上腸間膜 静脈の閉塞、腹水の貯留、小腸の拡張と壁肥厚を認め、血液検査でも著明な炎症反応の上昇を認 めた。凝固系検査ではFDP-DDの上昇を認めたが、PT、APTTは正常範囲内であった。以上より 腸閉塞、汎発性腹膜炎の診断にて開腹術を行った。開腹時、血性腹水の貯留を認め、Treitz靭帯よ り70cmの部から約120cmにわたり暗黒赤色に変化した空腸を認めた。うっ血性の小腸壊死と考 え、病変部を含めた小腸切除術、腸瘻増設術を施行した。術後、血栓の再発予防にヘパリン、 ワーファリンによる抗凝固療法を行った。術後に測定したプロテインS活性値は28.2%と低下を認 めた。家族調査を行ったところ父、長男のプロテインS活性値の低下を認め、門脈・上腸間膜静脈 血栓症による空腸壊死はプロテインS欠損症が原因と考えられた。現在は、ワーファリンによる抗 凝固療法を継続し、血栓症の再発を認めていない。【結語】門脈・上腸間膜静脈血栓症による空 腸壊死を認め、プロテインS欠損症が原因と考えられた一例を経験した。プロテインS欠損症によ る上腸間膜静脈血栓症の報告は稀であり、検索しえる限り本症例は本邦では90年以降で8例目で あった。