日本消化器内視鏡学会甲信越支部

7.診断に3ヶ月を要した空腸癌の1例

国立病院機構松本病院外科
国立病院機構松本病院病理
松本裕道、小池祥一郎、清水邦夫、江口隆、前野一真、中村俊幸、岩浅武彦、中澤功
国立病院機構松本病院消化器科

小腸悪性腫瘍は全消化管悪性腫瘍の0.3〜4.9%と頻度が比較的低い上に、小腸は容易に精査し える部位ではないことから、診断が遅れる傾向にあるといえる。今回、初診から3ヶ月後に小腸 造影にて診断した空腸癌の1例を経験したので報告する。
症例は75歳、女性。腹痛、嘔吐を主訴に2004年4月に当院内科を初診。上部消化管内視鏡検査 を施行したが、特に異常を認めなかった。5月に再び腹痛、嘔吐が出現し、経口摂取不良となった。 5日間の絶食による入院加療にて症状が軽快したが、貧血、体重減少も出現していたため、上部消 化管内視鏡検査を再施行したが異常を認めなかったため、小腸疾患を疑い7月26日小腸造影を施 行したところ、Treiz靭帯から約10cm肛門側の空腸に全周性狭窄を認めた。腹部CTでは、十二指 腸より肛門側の空腸に全周性の壁肥厚像とその口側の腸管の拡張像を認めたが、肝臓や周囲のリ ンパ節には特に所見を認めなかった。2003年11月に便潜血陽性にて大腸内視鏡検査を施行され、 ポリープ(Adenoma)1ヶのみを指摘されていた事もあり、空腸癌を疑い小腸内視鏡検査を予定 したが、7月29日より激しい嘔吐が出現したため、8月4日空腸部分切除術およびリンパ節郭清を 施行した。切除標本では大きさ5.8×2.9cmの輪状狭窄型の腫瘍を認め、病理組織学的所見で高分 化型腺癌、se、ly1、v1、CY0、P0、と診断された。手術操作にてTreiz靭帯を剥離したため閉 塞症状が遷延し、術後の経口摂取が第9病日からと遅くなったが、その後は順調に経口摂取可能で あった。現在UFT 内服にて外来経過観察中である。