日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.タール便を契機に発見された十二指腸GISTの1例

山梨大学医学部第1内科
小馬瀬一樹、大塚博之、高野伸一、高橋亜紀子、清水健吾、植竹智義、北原史章、中村俊也、佐藤公、榎本信幸
山梨大学医学部第1外科
鈴木哲也、松田政徳、藤井秀樹

【症例】54歳男性、C型慢性肝炎で近医に通院中であった。全身倦怠感、タール便を認めたため 当院を受診。ヘモグロビン6.0 g/dlと著明な貧血と、緊急上部消化管内視鏡検査で十二指腸水平 部に出血を伴う粘膜下腫瘍様病変が認められ緊急入院となった。造影CTで十二指腸水平部に動脈 相で辺縁が有意に染まり、内部も徐々に不均一に染まる腫瘤を認めた。腹部血管造影で小腸動脈 の十二指腸枝から栄養を受ける濃染像を認め、十二指腸gastrointestinal mesenchymal tumor (GIMT)を疑い、当院第1外科へ十二指腸部分切除を目的に転科。切除標本肉眼所見では、漿膜 側に突出する3×2.5 cm大の充実性粘膜下腫瘍を認めた。病理組織学的には、固有筋層と連続し た紡錐形細胞よりなる腫瘍性病変が見られた。免疫染色では、α‐SMA(部分的に陽性)、 CD34(部分的に陽性)、vimentin(びまん性に陽性)、s‐100(陰性)、c‐kit(陰性)で あった。以上より十二指腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した。
【考察】GIMTの部位別の発生頻度で小腸は10〜20 %であり、GIMTの組織別の発生頻度で GISTは約80 %である。GISTの約90 %でc‐kit陽性、約80 %でCD34陽性が見られる。本症例 ではCD34(部分的に陽性)c‐kit(陰性)、α‐SMA(部分的に陽性)より平滑筋への分化傾 向が見られる十二指腸GISTと考えられた。また、タール便が見られて通常の内視鏡観察で出血源 が同定できない場合、積極的に十二指腸水平部まで観察すべきと考えられた。