日本消化器内視鏡学会甲信越支部

4.十二指腸傍乳頭部憩室出血の内視鏡的止血後に後腹膜穿孔による膿瘍を来たした1例

長野赤十字病院消化器科
竹中一弘、張淑美、山川耕司、平野大、金児泰明、倉石章、森宏光、松田至晃、和田秀一

症例は80歳女性。近医で糖尿病、不整脈、高血圧に対し内服治療中であった。平成16年8月19 日より悪心、嘔吐が出現した。20日朝、黒色の吐物を嘔吐し、21日朝にはタール便、眩暈も出現 するようになったため、近医を受診した。貧血、頻脈、低血圧などの所見から上部消化管出血を 疑われ同日当院救急外来を紹介受診され、入院となった。入院時血圧は86/50mmHgで、血液検 査ではRBC 164×104/mm3, Hb 5.4g/dl, Hct 14.9%と高度の貧血を認めた。緊急上部消化管 内視鏡検査にて十二指腸の傍乳頭部憩室底部より湧出性の出血を認め、同部を止血用クリップ2個 で止血した。処置後施行した腹部単純レントゲン検査にて後腹膜腔の空気像を認め、第2病日より 発熱が出現した。腹部CTでは十二指腸下行部より外下方へ突出する大きな憩室から連続するよう に、右側の前傍腎腔・腎周囲腔から骨盤腔内に至る後腹膜膿瘍を認めた。その後、絶食・抗生剤 の投与にて徐々に解熱し、炎症所見も改善傾向したため、第18病日に上部消化管内視鏡検査を施 行したところ、憩室内のクリップ付着部より膿汁の流出を認めた。このため十二指腸にデニス チューブを留置して持続吸引を開始し、さらにCTガイド下に後腹膜膿瘍ドレナージを施行して現 在保存的治療を継続している。
十二指腸憩室出血はまれに経験され、クリッピング等による内視鏡的止血が有効であった症例 の報告も散見されるが、本例のようにクリップ止血後に後腹膜穿孔から膿瘍を形成した症例は極 めてまれと思われ、同様症例に対する処置の際に念頭に置くべきと考えた。