日本消化器内視鏡学会甲信越支部

3.内視鏡的に止血しえた十二指腸憩室出血の1例

山梨大学医学部第1内科
芦沢由紀子、斉藤晴久、門倉信、清水健吾、高橋亜紀子、 坂本穣、大塚博之、佐藤公、中村俊也、榎本信幸

75歳女性。2000年よりC型肝硬変、肝細胞癌に対して加療歴あり。2003年外傷性脳挫傷・硬 膜外血腫で脳神経外科入院中に大量に吐下血したため、上部消化管内視鏡検査を施行した。下十 二指腸角付近に憩室を認め、憩室内の露出血管から拍動性の出血があったため、クリップによる 止血術を施行した。以降出血無く経過していたが、2004年変形性脊椎症のためNSAIDSを服用後、 大量の下血を認め当院受診。受診時、血圧118/70であったが高度の貧血を認め、血液検査では RBC 234万/μl 、Hb 6.7 g/dl、MCV 79、MCHC 33と小球性低色素性貧血を認めた。ただち に緊急内視鏡を施行した結果、前回の出血部位と同一の十二指腸憩室の露出血管から噴出性の出 血を認め、クリッピングおよびトロンビン散布を行い止血した。以降出血無く、濃厚赤血球液輸 血にて貧血も改善した。憩室出血の原因検索のために腹部CT検査を行ったが有意な所見は認めな かった。露出血管の存在は明らかであったが、出血の原因は不明であり、再出血の危険も予測さ れた。しかし、血管造影検査でも異常血管はなく経血管的治療の適応とならず、肝硬変のため予 防的な手術も困難であった。そのためH2 blocker投与の上、外来での経過観察としたが現在まで 再出血は見られていない。十二指腸憩室症は大腸憩室症に次ぐ頻度で存在するが、出血は極めて まれであり本邦では70例程度の報告例がある。そのほとんどが高血圧を合併しているかNSAIDS の内服を契機に発症している。本症例ではNSAIDSの内服や肝硬変の存在の関与が推測されたが、 反復する出血をきたした興味深い症例と考えられたため若干の文献的考察を加え報告する。