日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.十二指腸多発性カルチノイドの2例

長野市民病院消化器内科、長野市民病院消化器科
竹花直樹、長谷部修、立岩伸之、今井康晴、長田敦
同外科
関仁誌
同病理
保坂典子
丸の内病院消化器科
中村直

【症例1】44才、男性。人間ドックの上部消化管内視鏡検査にて十二指腸下行脚に白色調で中心陥凹を伴う径5mmと径2mmの隆起性病変を認め、生検の結果chromogranin A陽性のカルチノイド腫瘍であった。EUS(IDUS)では第2層由来のhypoechoic tumorで第3層は保たれていた。 また腹部CT上明かな肝転移、リンパ節転移は認めず、EMRを施行した。術後、後腹膜穿孔と後腹膜膿瘍を合併したが保存的治療にて軽快した。病理所見では古典的カルチノイドで、ly(0)、v(0)、VM(-)、LM(-)であった。【症例2】63才、男性。H11年12月に胃癌にて幽門側胃切除術を施行された。H14年3月の定期的上部消化管内視鏡検査にて十二指腸下行脚乳頭部対側に径12mmの中心潰瘍を伴う粘膜下腫瘍を認めた。生検の結果neuroendoclineへ分化したcarcinoidが考えられ、cytokeratin、chromogranin A、synaptophysin陽性であった。腹部CT上明かな肝転移、リンパ節転移は認めなかった。外科手術適応と考え膵頭十二指腸切除術を施行した。病理所見では12mmのカルチノイドの他に、術前に指摘できなかった4個の微少カルチノイド(5mm、1.5mm、1mm、1mm)を認め、深達度はsm、ly(+)、v(0)、n(+): No14であった。【まとめ】十二指腸カルチノイドは球部に単発することが多く、多発性の報告は少ない。治療方針については一定の見解が得られていないが、腫瘍径が10mm以下では内視鏡的ポリペクトミーや局所切除、10mm以上になれば原発巣の完全摘出(幽門側胃切除や膵頭十二指腸切除術)とリンパ節郭清とすることが多い。今回の症例1に関しては、異時性多発、他臓器転移の厳重な経過観察が必要と考えられた。 75歳女性。2000年よりC型肝硬変、肝細胞癌に対して加療歴あり。2003年外傷性脳挫傷・硬膜外血腫で脳神経外科入院中に大量に吐下血したため、上部消化管内視鏡検査を施行した。下十二指腸角付近に憩室を認め、憩室内の露出血管から拍動性の出血があったため、クリップによる止血術を施行した。以降出血無く経過していたが、2004年変形性脊椎症のためNSAIDSを服用後、大量の下血を認め当院受診。受診時、血圧118/70であったが高度の貧血を認め、血液検査ではRBC 234万/μl 、Hb 6.7 g/dl、MCV 79、MCHC 33と小球性低色素性貧血を認めた。ただちに緊急内視鏡を施行した結果、前回の出血部位と同一の十二指腸憩室の露出血管から噴出性の出血を認め、クリッピングおよびトロンビン散布を行い止血した。以降出血無く、濃厚赤血球液輸血にて貧血も改善した。憩室出血の原因検索のために腹部CT検査を行ったが有意な所見は認めなかった。露出血管の存在は明らかであったが、出血の原因は不明であり、再出血の危険も予測された。しかし、血管造影検査でも異常血管はなく経血管的治療の適応とならず、肝硬変のため予防的な手術も困難であった。そのためH2 blocker投与の上、外来での経過観察としたが現在まで再出血は見られていない。十二指腸憩室症は大腸憩室症に次ぐ頻度で存在するが、出血は極めてまれであり本邦では70例程度の報告例がある。そのほとんどが高血圧を合併しているかNSAIDSの内服を契機に発症している。本症例ではNSAIDSの内服や肝硬変の存在の関与が推測されたが、反復する出血をきたした興味深い症例と考えられたため若干の文献的考察を加え報告する。