日本消化器内視鏡学会甲信越支部

1.ESDを施行した十二指腸ブルンネル腺腫の一例

長野中央病院消化器内科
小島英吾、松村真生子、大石美行
長野中央病院病理科
束原進

真の十二指腸ブルンネル腺腫に対しESDを施行した際に,穿孔しクリップ閉鎖にて保存的に軽快した稀な症例を経験したため報告する. 【症例】症例は,55歳男性.2002年11月20日に当院にて人間ドックを受け,その際内視鏡検査にて十二指腸上十二指腸角前壁に約15mm大の粘膜下腫瘍を認め,生検にてブルンネル腺腫と診断された.翌2003年12月には形態変化を認めたため,悪性腫瘍も否定できず加療目的にて2004年2月に当院入院となった.EUSでは,病変は第3層を主座とし,内部に小さなのう胞状の変化を伴う低エコー腫瘤として描出された.また,第4層には狭小化や断裂は認めず明瞭に描出され,深達度は粘膜下層までと診断した.同年2月2日にHOOKナイフを用いたESDを施行したところ,全周切開の施行中に穿孔した.十分な視野を確保した上でクリップにて穿孔部の閉鎖を行い,ある程度まで粘膜下層の剥離を施行した後,スネアにて一括切除を行った.術後は後腹膜気腫を来たしたものの,胃管を挿入し抗生剤の投与にて順調に軽快し,術後8日で退院した.標本は,円柱から立法状の細胞からなる異型腺管が粘膜内から粘膜下層に圧排性に発育していた.腫瘍細胞はPAS陽性粘液を持ち,真のブルンネル腺腫を診断した. 【考察・結論】「ブルンネル腺腫」はその定義に混乱が見られ,過去に報告されている症例の中には過誤腫,過形成,腺腫が混在して見られる.ブルンネル腺由来と想定され,正常ブルンネル腺と明らかに異なる組織異型を示す病変を真のブルンネル腺腫と定義すると,真のブルンネル腺腫の本邦での報告は本例も含め4例であり,貴重な症例と考えられた.本例での穿孔は,局注量の不十分な粘膜を切開している際に発生した.特に,粘膜ひだの前後にも十分な量の局注を行うべきであった.ESDの際に穿孔を引き起こしたが,クリップ閉鎖にて保存的に軽快しえた.