サンワンリバーでの14日間 Part.6


ハンティング最終日

5時30分起床。今日が最後のハンティング。
現れてくれるかなぁ?
昨日ランディと帰ってくる途中、ボブキャット(山猫)を見かけたので、
その辺りが今日の狩り場となった。
茂みに潜み、コヨーテを呼ぶ。
3日目ともなれば、銃の扱いにも慣れてきた。
しかしチャンスはやってこない。
いつもなら2,3匹は獲れるという。
ティムが「去年は1日で9匹獲った」と自慢げに話すので、
「ティムが獲りすぎたんだよ」と皮肉で返した。

低い山々が複雑な地形を作り、背丈の低い草木が永遠と続く。
山や谷にさえぎられない限り、どこまでも視界が広がる。
360度見渡せるような茂みを見つけ、3人で手分けしてコヨーテを探す。
ティムの笛はコヨーテを呼び続ける。
プゥーワ、プゥーワ。
・・・
プゥーワ、プゥーワ。
・・・
すると私の正面はるか遠くで何かが動いている。
肉眼ではそれが何なのかわからない。
もしかすると・・・

プゥーワ、プゥーワ。
笛は鳴り続けている。

ライフルのスコープを使って、動くものに合わせる。
スコープの中にくっきりと浮かびあがったその姿は、
コヨーテだった。
走っては座り、走っては座り、こちらの様子をうかがいながら、
山の斜面を少しづつ下りてくる。
笛の音に引きつけられるかのように、確実にこっちへ向かっている。
ライフルの安全装置をゆっくりと音を立てないように解除する。
カチッとでも音をだせば、コヨーテに気づかれてしまう。
スコープの中央の十字はしっかりとコヨーテを捕らえ、
右手の人差し指は冷たい引き金を感じている。

プゥーワ、プゥーワ。
走っては座る、走っては座る、
タイミングを計りながら右手の人差し指に力が入る。
走っては座る、走っては、

・・・
遠すぎる。
コヨーテまでの距離は、300メートルほどはあるだろうか。
コヨーテのタイミングはしっかりととれ、座った瞬間に引き金を引くことは出来るが、
スコープが微妙に揺れ、私に引き金を引かせてくれない。
ましてこちらへ向かって走ってくるのだから、確実な距離まで待った方が良いのでは?
撃つか、待つか。
コヨーテに照準を合わせたまま、頭の中がふる回転して答えを出した。

走っては座る、走っては座る。
・・・
待とう。
獲物は確実に捕らえるんだ。
コヨーテはこちらに向かって走り続け、
谷へと姿を消した。
次にいつ手前の丘に現れるか、もし現れれば距離は50メートル以内になる。
今か今かと、体を固くして待った。
しかしいくら待っても現れない。
ティムがゆっくりと動き出す。
お互いに目を合わせうなずき、姿を消した谷へと静かに近寄る。
いつでも引き金は引ける。
が、しかしコヨーテは姿を消していた。
かすかに背中からの風を感じる。
3人の臭いで感づかれたのだろうとティムが言った。

コヨーテを見つけてからわずか5分ほどの出来事だったけど、
その間中、飛び出しそうなほど心臓は激しく鼓動し、
膝の震えが銃を支える腕まで伝わってきそうだった。
それでも頭の中はコヨーテを追い、待つか撃つか、冷静に答えを探した。
ほんの数秒間の出来事だったけど、時間は止まっているかのように重く長く、
私の体には稲妻が走った。
これが本物のハンティングってヤツか。
どこまでも続く乾いた大地をどこにいるかわからない獲物を求めさまようコヨーテ。
かすかに聞こえる獲物の音を頼りに、少しずつ近づいてくるあの目が、
スコープを通してくっきりと私の心に焼き付いた。
その野生に銃口を向け、今にも引き金を引きそうな右手にためらう気持ちはなかった。
コヨーテに試されているかのような、自分を試す気持ちが、
冷静な判断でコヨーテを待つことが出来た気がした。
結局コヨーテに逃げられてしまったけど、何となく自分に勝てたような気がした。
ティムが俺に教えてくれたのは、ただ動物を銃で殺すハンティングではなく。
引き金を引くまでのドラマを教えてくれたような気がした。

その後何度か場所を変え、コヨーテを呼んだけど、
再び俺の前に現れることなく、ハンティング最終日が終了した。
結局どんな動物も殺さないで終了したことに、よかったなぁと帰りの車の中で思った。
やっぱりハンティングってのは、俺には刺激が強すぎる。
しかも獲物を前にしたあの心境は、釣りで十分味わうことが出来る。
釣りならいくら釣っても逃がすことが出来るし、
なんと言っても魚は可愛い。
釣りはまったく平和でのどかな遊びだ。
改めて釣りが好きになった。


            コヨーテバンザイ!

Topへ  fishingへ ←Part5   Part.7→