複雑な法律手続きから、文化摩擦、生活設計、結婚生活の悩みまで、国際結婚に関するあらゆる情報をお届けします。
みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。今回はニュース等で目にすることが多い外国人看護師・介護福祉士の受け入れについて取り上げます。
外国人看護師・介護福祉士の受け入れについては、このところTVや新聞・雑誌等で何度も取り上げられていますので、その存在自体はご存知の方も多いと思います。これに関して一般の方々は「人手不足の看護や介護の現状を改善するために、外国(アジア)から看護師・介護福祉士がやってきた」と認識されているのではないでしょうか。しかし、実態はそうではありません。今回の受け入れの実態は、看護師・介護福祉士の候補者を受け入れて、彼女らが試験を受けるまでの間、特例として病院や介護施設等で働くことができるようになった、というものなのです。今回来日したのはあくまで候補者であって、数年の就労・研修の後、看護師・介護福祉士試験に合格してようやく看護師・介護福祉士になれる人々です。
実はこれまでも外国人医師や看護師などは数多く存在しました。代表的なのが在日韓国・朝鮮人を代表とする特別永住者の医師や看護師です。特別永住者などは外国籍であっても就労制限がなく、かつては高学歴者であっても就職差別があったので、勉強のできる特別永住者は弁護士や医者など資格によって働ける専門職を目指すことが多かったからです。
また、少人数ですが、就労制限のある外国人にも医師や看護師はいます。在留資格の一つに「医療」があり、たとえ就労制限のある外国人であっても国家試験に合格すれば医師や看護師として働くことができたからです。ただし、この試験はあくまで日本の国家試験であり、本国で医者や看護師の資格を得ていても日本の国家試験に合格しなければ「医療」の在留資格は取得できませんでした。その上、平成18年に改正されるまでは、国家試験を受ける前提として日本の医大や看護学校を卒業した者でなければならないという規定もあり、ほとんど活用されていませんでした。しかも、合格してからも日本人とは違ういくつかの制限が設けられており(これは今でもそうです)、条件が悪いものになっています。
しかし、日本の看護学校を卒業し、国家試験に合格した上で看護師になるものも少数はいて、まとまった人数のものとしてはベトナム人の看護師の存在が知られています。これは平成3年から関東JFBネットワーク協同組合(現AHPネットワーク協同組合)という団体が行なっているベトナム人看護師の養成支援事業に基づくもので、平成5年に厚生省(当時)から事業許可を受け、ベトナムの医療省・労働省・文部省と協定書を取り交わして、ハノイに日本語教室を設置し留学候補生の指導を始めました。そして平成9年に17名が看護学校を受験し、このうち4名が合格し、「第1期生」となりました。以来、短大や4年制大学に進学する者もいるなど毎年わずかずつですが着実に実績を上げています。
さて、ニュースの外国人看護師・介護福祉士の話題に戻ります。平成19年8月20日、日本とインドネシアとの間で経済連携協定(EPA)が結ばれ、国会での承認を経て平成20年7月1日に発効しました。経済連携協定(EPA)とは、自由貿易協定(FTA)に加えて、人や投資・政府調達・二国間協力など貿易以外の分野を含んで締結される包括的協定のことで、日本はこれまでにシンガポール・メキシコ・マレーシア・チリ・タイ・インドネシア・ブルネイ・ASEAN・フィリピンという9つの国と地域とEPAを結んでいます。協力する分野や内容についてはそれぞれの協定によって異なりますが、このうちインドネシアとフィリピンとの協定では看護・介護分野の人材の受け入れを含むものとなっており、これに基づいて今回インドネシアの看護師と介護福祉士の受け入れが開始されたわけです。
しかし、候補者たちは本国では有資格者の中から選抜されていますが、日本では看護師・介護福祉士ではありません。候補者は半年間の日本語研修等を受講した後、病院や介護施設で看護助手やヘルパーとして働きながら看護師や介護福祉士の国家試験合格を目指します。そして合格すれば日本で正式に看護師・介護福祉士として就労できるようになります。ただし、看護師で3年以内、介護福祉士で4年以内に合格できなければ帰国しなければならないという大変厳しい条件が課せられています。条件が厳しすぎることもあって、応募者も上限とされる人数に達していないようです。
ともあれ、昨年8月にその第一陣としてインドネシア人看護師・介護福祉士候補者それぞれ104名の計208名が来日し、日本語等研修の受講した後、介護福祉士候補者については1月29日から24都府県の特別養護老人ホームなど51施設での就労・研修を開始しました(3名については十分な日本語能力を有しているとして日本語研修が免除され、介護導入研修を1週間程度受講した後、すでに9月8日から受入施設で働いています)。また、看護師候補者は本年2月中旬から就労・研修を開始する予定です。
フィリピンに関してはインドネシアより早く平成18年9月9日にEPAが結ばれていましたが、なかなかフィリピンの国会での承認が得られず、ようやく昨年12月11日に発効しました。本年1月13日より候補者の募集が開始され、候補者は4月下旬から5月上旬頃に入国する予定です。またフィリピンとのEPAでは、介護福祉士養成施設に就学して介護福祉士資格の取得を目指すコースも設けられていて、こちらを希望する者は6〜7月頃に募集し、10月に入国し日本語研修等の後来年4月から介護福祉士養成施設に入学する予定になっています。
今後は、私たち日本人が病院や福祉施設でインドネシア人やフィリピン人の看護師・介護福祉士(当初は候補生)に出会う可能性が出てきます。職場の医師・看護師・職員など、また患者・利用者とのコミュニケーションに不安は残りますし、労働ダンピング防止などの問題も残りますが、しかし一般の方々にとっては安心できて質の高いサービスを受けられればいいのであって、看護師や介護福祉士が日本人であるかどうかはさほど問題ではないでしょう。現代は国際化の時代であり、外国で暮らす日本人は当然ながら外国人であるその地の医療従事者に診てもらっているわけですから、看護師や介護福祉士が外国人であることは特別視する問題ではありません。これまで外国人が登場するとは考えられていなかったところに外国人が現われると、最初は驚くでしょうが、ようは慣れの問題であって、いったん慣れてしまえば、あとは日本人であろうが外国人であろうが、その人物が有能であるかどうか、善い人であるかどうかということになります。それでも、日本人の17組に1組は国際結婚ですから、外国人の看護師や介護福祉士に当たる確率は、家族のメンバーとして外国人が嫁や婿にやって来るよりまだまだ低いのです。まだ端緒についたばかりですが、国際化や少子高齢化という日本自身の直面する問題を考えると、今回の外国人看護師・介護福祉士の受け入れは良い結果になってほしいものです。
平成21(2009)年2月1日
Copyright(c) H17〜 K-office. All rights reserved.