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◆第39章 夫婦財産契約◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。今回は夫婦財産契約について取り上げます。夫婦財産契約とは、お互いの収入や財産の取り扱い、離婚した場合の財産分与などについて、結婚前にあらかじめ取り決めておくことです。日本ではあまりなじみがないものですが、外国では夫婦財産契約を交わすことは珍しくなく、国際結婚の場合に問題になることもあるので、取り上げることにしました。

夫婦は家事・子育て・生活費を稼ぐことなどを役割分担します。生活費について言えば、男性は働き、女性は専業主婦という場合もありますが、現在では共働きが多く、子供が小さい間は子育てに専念する場合でも子供の手が離れればパートなどに出るというのも一般的です。家族という単位は、一体のものでもありますが、それぞれ独立した別個の人間の集合体でもあります。それぞれ独立した別個の人間ということは、法律的に見れば、独立した権利主体ということです。独立した対等の権利主体として、夫婦が夫婦の財産の帰属について結婚前に決めておくことが夫婦財産契約です。

結婚前から持っていた財産はそれぞれ個別の財産だとしても、結婚後に働いて得た収入や結婚後に相続した財産などはどういう扱いになるのか。夫の給料は夫だけのものなのか。持ち家の場合はどうなるのか。基本的にご主人の収入で家を建て名義もご主人になっていたとしても、奥さんが家事や子育てしパート収入で生活費を負担していたりすればどうか。このような疑問に対して、夫婦なのだから当然に共同のものと考え方もあるでしょうし、それぞれの収入や財産は別々のものという考え方もあるでしょう。結論を言えば、家族によって状況や事情は異なりますし、他人がとやかく言うことではなく、家族で決めればいいことです。しかし、夫婦関係が円満なうちはそれでいいのですが、関係が悪くなり離婚してしまった場合などには、財産の帰属や財産分与が不可避的に問題になってきます。そこで、将来の夫婦間のトラブルを想定して(何事もないのが望ましいわけですが)、いくつかの法律が用意されています。その一つが夫婦財産契約です。

夫婦財産契約について説明する前に、財産分与について簡単に説明します。財産分与とは、結婚している間に共同して作った財産を、離婚に際して清算することです。財産分与は離婚原因がどちらにあるかということとは関係がありません(それは慰謝料の問題になります)。夫婦は結婚中に協力して財産を形成するのであって、名義がどちらかのものとなっていても、その財産が得られたのは二人の協力があってのことです。夫名義の財産であったとしても、妻の協力や貢献によって獲得維持されることが普通であり、実体は夫婦の共有財産であると見做すのが常識的です。これは妻が仕事をしているかどうか(生活費を負担しているかどうか)には関わりません。そういったことから、離婚に際して共有財産を清算するのが財産分与です。
※ただし、相続した財産や別居期間中に得た財産などは共有財産ではないので(特有財産と言います)、財産分与の対象にはなりません。

婚姻費用の分担や夫婦間における財産の帰属はそれぞれの家族で決めればいいことですが、民法では一つの基準として次のように決めています。これを法定財産制と言います。

「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」(第760条)

「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とする」(第762条1項)

「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する」(第762条2項)

また、財産分与については次のように決められています。

「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」(第768条1項)

民法の法定財産制ではなく、婚姻費用の分担や夫婦間における財産の帰属、財産分与について夫婦が自分たちで決めることが夫婦財産契約です。普通、夫婦間の契約は婚姻中いつでも取り消すことができるのですが(第754条)、婚姻届の提出前に夫婦財産契約を結んでおけばお互いを拘束し、履行しなければなりません。また、婚姻後の氏(名字)を名乗る者(戸籍筆頭者となる者)の住所地を管轄する法務局において登記すれば、相続人や債権者等にも対抗することができます。夫婦財産契約は婚姻後は変更することができません。

夫婦財産契約は、手続きが大変わずらわしいということもありますが、欧米と違って日本人は契約になじみにくいということもあり、実際の利用者が少なく、年間数件しか行なわれていないというのが実情です。しかし、国際結婚では少し事情が異なるようです。外国では夫婦財産契約を交わすことは珍しくないためです。私も「外国人と交際しているが、結婚するなら夫婦財産契約を結びたいと言われたが、どういうものでどうすればいいか」と相談されることがたまにあります。

文化を共有している日本人同士でも、お金の使い方が原因で離婚に至ることがあります。家族や子育て、仕事などについての考え方、感じ方が異なる国際結婚ではなおさらです。お互い愛し合って結婚するのですから、あまりビジネスライクなのもどうかとは思いますが、夫婦財産契約を結んでおくことで結婚中のトラブルを未然に防ぐことができ、またたとえ離婚するに至ったとしても、財産分与で険悪な関係に陥ることなく離婚後も付き合えるなど円満な関係でいることが期待できます。

夫婦財産契約を結ぶには、お互いがじっくりと話し合うことが必要です。結果として契約するかどうかはともかく、また契約を前提にしない場合であっても、結婚に当たって様々なことを話し合っておくことは大事なことです。国際結婚を考えているならば、夫婦財産契約というものがあるということを頭に留めておいてもいいでしょう。

※国際結婚の場合は、民法ではなく、相手の国の法律で夫婦財産契約を結ぶこともできます。法の適用に関する通則法によれば、どちらか一方の国籍のある国あるいは常居所地の法律(不動産にかんしては所在地の法律)に従って夫婦財産契約を結んだ場合、夫婦財産契約は有効であり、外国法に基づいて行なわれた夫婦財産契約も日本において登記することができる、となっています。

平成19(2007)年9月1日

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