複雑な法律手続きから、文化摩擦、生活設計、結婚生活の悩みまで、国際結婚に関するあらゆる情報をお届けします。
みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。今回は国際結婚における遺言と相続という問題について取り上げます。
日本で暮らしている外国人は、現在200万人を突破しています。また、平成17年の国際結婚は4万件を超えており、これは平成17年の結婚総数の5.8%に上っています。国際結婚が年々増加しているだけでなく、それに付随して様々な事柄も増加しています。たとえば国際離婚ですが、平成17年の離婚総数の6.4%が日本人と外国人カップルの離婚というデータが出ています。また、当然のことですが、ハーフやクォーターで二重国籍を持つ子供が増加しています。そして、今回のテーマである国際結婚における遺言と相続の問題ですが、日本に住んでいる外国人が死亡して相続が発生するケース、日本に住んでいる外国人が遺言書を作っておこうと考えるケースなどが増えています。
国際結婚における遺言と相続については、日本では「法の適用に関する通則法」という法律で規定されています。法の適用に関する通則法は、もともと「法例」と言っていましたが、今年の1月1日より名称が変更になってこのように呼ぶようになりました。国際結婚のような二国以上が関わっている渉外事件では、どの国の法律を適用するかに関して、大きく分けて本国法主義と住所地法主義という二つの考え方があります。本国法とは国籍のある国の法律のことで、住所地法とは住んでいる場所の法律のことです。「法の適用に関する通則法」によれば、相続や遺言の準拠法(適用される法律)は被相続人の本国法によるとされています。
相続や遺言の準拠法が被相続人の本国法によるというのは、日本人は日本の法律(遺言や相続に関しては民法)が適用されますが、外国人は日本に住んでいたとしても国籍のある国の法律が適用になるということです。これは一般的な外国人だけではなく特別永住者の場合も同じで、日本で生まれて日本で育ち、本国に一度も行ったことがないとしても、日本の法律ではなく本国の法律が適用になります。
ただし、本国の法律と言っても、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどのように連邦制を取っていて州によって法律が異なる国の場合は州の法律が適用されますし、インドやマレーシアなどのように他民族多言語で人種や宗教によって適用される法律が異なる場合は属する人種や宗教の法律が適用されます。
多重国籍や難民のような場合には、別にそれぞれの条件に対応する規定があります。たとえば多重国籍の場合は、国籍のある国のうち常居所のある国の法律か、常居所がなければ最も密接な関係がある国の法律が本国法になります。ただし国籍の一つが日本の国籍である時は、常居所等に関わらず日本の法律が本国法になると規定されています。また難民の場合は、「難民の地位に関する条約」によって、住所あるいは居所を有する国の法律が適用になります。
これ以外に、専門用語で反致と言いますが、本国の法律に「住んでいる国の法律に従うこと」となっている場合は、住所地の法律(たとえば日本の民法)が適用されます。少しややこしいですが、このケースでは本国法に従うことによって住所地法が適用されるということになっているわけです。また、相続財産の種類(動産か不動産か)によって準拠法が異なる国もあり、動産に関しては本国法が適用されるが、不動産に関しては不動産が存在する場所の法律(所在地法)が適用されると規定している国もあります。
遺言の方式は、日本人は自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3つの方式のいずれかで行なう必要がありますが(危急時を除く)、外国人の場合は行為地法・本国法・住所地法・常居所地法・所在地法(不動産の場合)のいずれか一つに適合していれば有効とされます。これは「遺言の方式の準拠法に関する法律」という法律によるもので、遺言がある場合に遺言者の意思をできるだけ尊重し、遺言が無効とならないための規定です。
以上、国際結婚の遺言と相続についてごく簡単に説明しましたが、夫であれ妻であれ、日本人は民法の規定により、外国人は本国法の規定によるというのがポイントです。配偶者が亡くなった場合、葬儀や遺産の処理や相続税の申告など日本人同士の結婚であっても面倒な手続きが待っています。国際結婚では、それに加えて外国に財産や遺族やある場合も多く、調査や話し合いが大変になることも少なくないでしょう。それだけでなく、上で説明したように、外国人の遺言と相続に関しては本国法を調べる必要があるので、国際結婚されているご夫婦は、相続や遺言に備えて、自分の国(相手の国)の法律を調べておいた方がいいでしょう。
平成19(2007)年8月1日
Copyright(c) H17〜 K-office. All rights reserved.