複雑な法律手続きから、文化摩擦、生活設計、結婚生活の悩みまで、国際結婚に関するあらゆる情報をお届けします。
みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。先月は入管や戸籍についてのニュースがいつもより多く目に付きました。切り口は様々でしたが、入管や司法の厳しさに対して批判的な報道が少なくなかったように思います。前回のメルマガで、離婚後300日以内に出生した子供は前の夫の子供として届け出なければならないという民法772条の規定に関連したトピックを取り上げましたが、メルマガ発行後、前回取り上げたトピック以外に、離婚後300日問題に関連した様々な出来事が報道されました。今回は、それらの報道から三つのトピックを取り上げたいと思います。
★ ★ ★
2月16日の報道によると、山形市で出生届を受理した職員が、前の夫の戸籍に記載するべきなのに母親の戸籍に記載してしまい、その後ミスに気付き、勝手に修正していたという出来事がありました。これは、女性が父の欄を空欄にしていたために、職員が前の結婚のことをチェックせずに未婚の母扱いにしてしまったということのようです。この出来事は職員がミスを誤魔化そうとした点は問題ですが、法律問題としては単純ミスであったようです。女性が父の欄を空欄にしていたことにも原因があるのですが、実際の父親ではない元の夫を父として届け出るなどということは、離婚後300日問題という特殊な規定を知らなかったら考えもつかないことですから、未婚中の出産の場合は父の欄を空欄にするという一般的な書き方をしてしまったのは無理からぬことです。職員の方も、プライバシーの問題もあり、離婚歴までチェックしなかったのでしょう。離婚後300日問題にはこのようなミスが起こりやすい性格があると言えます。
★ ★ ★
同じく2月16日の報道によると、離婚して5ヶ月後に子供が生まれたので法律どおりに前の夫の子として届け出たところ、4年ぐらい経過してから出生届が出されていることに気付いた前の夫が自分の子供でもないのに勝手に届け出たとして、元妻を大阪府警に刑事告発したため、大阪地検が女性を公正証書原本不実記載・同行使罪で起訴していたという出来事がありました。これは当然、府警・地検が離婚後300日問題を失念していたために誤りを犯したものです。女性自身は、警察の捜査に役所の指導に従っただけだと供述したそうですが、その段階では警察は誤りに気付かず送検し、地検も誤りに気付かず起訴してしまい、裁判で弁護士が民法上正当な行為だと無罪を主張したことでようやく誤りが明らかになったそうです。この出来事は、検察官が基本的な法律を知らなかった(忘れていた?)ことによって生じた珍事と言えるでしょう。
公正証書原本不実記載というのは、公務員に虚偽の申立てをして戸籍などの公正証書に嘘の内容を記載させたという罪です。前の夫の子ではないのに前の夫の子として届け出るのは、公正証書原本不実記載と言われればそれ自体はその通りで、民法の方に従えば刑法に触れてしまうという、離婚後300日問題の問題点の一つなのですが、このケースでは当然ながら違法性がないので、罪にはなりません。この出来事に対して、長勢甚遠法務大臣は陳謝し、誤起訴した検察官などを処分するということです。私見ですが、報道によればこの女性は中国籍であった上に別の犯罪で服役中だったということなので、「この人間は犯罪を犯す」という予断が当局の方にあったのかもしれません。女性が日本人ならば、恐らくこのような問題には発展しなかったでしょう。ちなみに、偽装結婚も公正証書原本不実記載の罪に当たります。
★ ★ ★
離婚後300日問題は社会問題になっていて、運用のフレキシビリティや根本的な見直しの必要性が求められるようになってきています。これは27日の報道ですが、東京都足立区では、実際の父親の子として出生届を提出したが受理されず、前の夫の協力がないこともあって無戸籍のままとなっている子供に、事情を聞いて検討した足立区が、福祉的見地から特例的に住民票を作成したということです。住民票があれば、児童手当、乳幼児検診、予防接種などを受けられるようになるので、子供の人権を考えて取られた措置です。これは、行政が運用をフレキシブルに対応したケースですが、足立区には他の自治体から多数の問い合わせがあったようです。
これまで毎月2回刊行してきた『メールマガジン国際結婚』ですが、今回3月1日より毎月1回発行ということにさせて頂きます。今後も全力投球で書いて行きますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願い申し上げます。ご意見やご感想、体験談などありましたら、お寄せ下さい。
平成19(2007)年3月1日
Copyright(c) H17〜 K-office. All rights reserved.